アーカイブ

投稿者のアーカイブ

第13回大会

2007 年 8 月 22 日 コメントはありません

第13回大会 2007年(平成19年)8月22日 参加校 22校
タイトルおよび発表内容要旨 (入賞者を除き発表者氏名50音順)
※氏名・所属・学年は発表当時

優勝:秋山 祐子, 日本大学歯学部, 5年生

視認性に優れたオリジナル Shade guide の製作

審美修復を行うにあたって、歯の色調観察には、一般的にshade guideが用いられている。shade guideは、ヒトの歯の色調を表現するために、様々な色調から構成されている色見本である。しかし、天然歯とshade guideの色を一致させることは臨床的に難しく、これを行う環境や術者の経験などに影響を受けることが知られている。そこで、視認性に優れたshade guideを製作することを目的として、分光光度計を用いて光重合型レジンの色調分布について検討した。次いで、そのデータを基に光重合型レジンを用いたオリジナルshade guideを製作した。
実験には、異なる色調を有する市販の光重合型レジン2製品を用いた。試片の色調の測定には、フレキシブルセンサーを取り付けた高速分光高度計を用いた。その結果、同一の色番号で比較すると、光重合型レジンの明度および彩度は製品によって異なり、色の空間分布も製品によって違いが認められた。したがって、光重合型レジンを用いた審美的修復処置を行うためには、色調分布を考慮して、立体的で視認性に優れたオリジナルshade guideを指標としてシェードテイキングを行うことは臨床的には有効である可能性が示唆された。

第2位:井田 有亮, 北海道医療大学歯学部, 5年生

コンポジットレジン製フレームワークを用いた新しい全部床義歯の製作法

金属床義歯は、レジン床義歯と比較して、(1) 強度が高いので薄くできる、(2) 吸水性がないので衛生的である、(3) 熱をよく伝えるなどの利点を有している。一方、金属床義歯の欠点としては、(1) コストが高い、(2) 床の不適合をリベースによって再適合することが難しい、(3) 作業工程が複雑であるなどの点が挙げられる。そこで本研究では、アクリルレジンよりも強度が高く吸水性が低いコンポジットレジン(CR)を用いてフレームワークを作製し、金属床とレジン床の利点を併せ持った新しいタイプの義歯を製作することを試みた。CRフレームワークは、熱可塑性樹脂を作業用模型上でプレス加工して作製した型を用いて成形し、光重合させることによって作製した。その後、通法に従って蝋義歯を作製し、加熱重合レジンを用いて義歯を完成させた。今回使用したCRの曲げ強さは189.8(±16.2)MPaとアクリルレジンのおよそ2倍であった。したがって、床の厚さをアクリルレジン床の 70%程度に薄くすることができた。また、CRはアクリルレジンと比較すると吸水性が低いので、本義歯は衛生的な観点からも優れているものと考えられる。

第3位:高尾 宗禎, 鶴見大学歯学部, 4年生

マヌカ茶の抗菌作用を応用した口臭抑制キャンディーの開発

口臭はビジネスやプライベートにおけるコミュニケーションに対する障害となりえる口腔の状態である。そこで、抗菌作用があると言われているお茶成分を応用した口臭抑制キャンディーの開発を試みた。今回の研究では、マヌカ茶と緑茶を選択し、口臭と歯周病および齲蝕の原因菌を用いてそれぞれのお茶の抗菌作用を比較検証した。マヌカ茶と緑茶の抗菌作用を最小殺菌濃度で調べたところ、マヌカ茶の抗菌作用の方が明らかに高かったので、マヌカ茶葉粉砕物の懸濁液と熱水抽出液で比較したところ懸濁液の抗菌作用の方が高い事が示された。この結果から、マヌカ茶葉の粉砕物を含むノンシュガーキャンディーを実験用、含まないものを対照用として製作しランダム化クロスオーバー型の臨床試験を行った。その結果、マヌカ茶葉配合キャンディーは口臭原因物質である三種類の揮発性硫黄化合物に対しての顕著な抑制効果があるだけでなく、対照用に比べ口臭抑制の持続時間も長かった。またアンケート調査結果から口腔爽快感と口臭抑制感が優れていた。
以上の結果から、マヌカ茶葉配合キャンディーの口臭抑制に対する有用性と実用化が示唆された。

芦川 すが, 東京医科歯科大学歯学部, 5年生

パノラマX線写真を用いた下歯槽神経麻痺の術前診断法

近年、外科的矯正術に加えて智歯抜歯やインプラント治療が増加し、術後の下歯槽神経麻痺も増加している。本研究の目的は、広く普及しているパノラマX線写真を用いて下歯槽神経麻痺の発生を術前に判断する簡便な診断法を確立することである。
下顎枝矢状分割術を施行した男女31名(62側)を対象とし、術後2週間にオトガイ部の温冷覚・触覚麻痺を検査した。患者のパノラマX線画像上で、下顎管の直径(=A)、下顎管上縁から下顎下縁の皮質骨までの距離(=B)を測定し、A/B比率を算出した。A、B、A/Bと各神経麻痺の発生率について相関をみた。さらに3ヵ月後の麻痺残存率との相関を見た。
本研究結果から、Aは冷覚麻痺の発生率と有意な相関があることがわかった。A/Bは温覚麻痺、冷覚麻痺、触覚麻痺全ての発生率に有意な相関を示した。特にA/Bが0.6以上である場合、3ヵ月後の麻痺残存率が有意に高かった(p< 0.01)。
パノラマX線写真を用いた術前診断では、A/Bを検討することが重要であり、特にA/Bが0.6よりも大きい場合は術者は下顎管の走行を精査し、術式等を再検討することが望ましい。本研究は智歯抜歯やインプラント治療後の知覚麻痺の発生率にも応用されることが期待される。

大城 健, 明海大学歯学部, 4年生

3Mixのヒト口腔細胞に対する傷害性の検討

3Mixは、metronidazole (MN)、minocycline (MINO)、ciprofloxacin (CPFX)の作用機序の異なる3種の抗菌薬の練和物であり、軟化象牙質への投与により、口腔内病巣の効果的無菌化が期待できる。しかし、厚生労働省から認可されていないため安全性の検討が必要である。3Mixは不安定であり、水、光、高温と化学反応を起こして変質・失活する。3Mixは高い反応性を示すので、細胞機能に影響を与える可能性が考えられる。本研究では、MN、MINO、CPFXを種々のモル比で含有する3Mixを調製し、ヒト口腔細胞に対する傷害性を検討した。その結果、いずれの3Mixもほとんど歯髄細胞等の正常細胞には傷害性を示さないことが判明し、臨床応用の安全性が示唆された。しかし、3Mixは細胞に対して全く作用しないわけではなく、口腔扁平上皮癌細胞、特に、骨髄性白血病細胞に対して強い細胞傷害性を示した。細胞傷害性の原因となった成分はMINOであった。MINOの抗白血病効果の機序について現在検討中である。

岡澤 仁志, 朝日大学歯学部, 4年生

嚥下障害患者に対する食品としてのお粥の特性

日本において、お粥は、柔らかくて飲み込み易い病院食とされている。また、嚥下障害のある患者にも、お粥を与える事が多い。しかし、どの様な物性のお粥が嚥下障害患者に適しているのかについての詳細な検討は行われていない。そこで我々は、様々な方法で調理したお粥の物性を食品テクスチャ計測により検討した。また、お粥を検査食とした嚥下障害患者のビデオ嚥下造影検査(VFSS)所見を検討した。
その結果、水の量を増やして調理したお粥ほど、柔らかく、付着性が小さくなっていた。付着性の大きなお粥では、患者の口腔・咽頭腔への残留が多くなっていた。嚥下障害患者に対する病院食としてのお粥は、咽頭への残留を減らすために、付着性が大きくなり過ぎない様に調理すべきである。VFSSや内視鏡検査とテクスチャ計測を併用しながら、個々の嚥下障害患者に適した飲食物のテクスチャ特性を探る事は、臨床上大きな意味があると考える。

越智 信行, 九州歯科大学, 6年生

Web上でTeaching Fileを作ろう

【目的】口腔顎顔面領域でのパノラマX線写真やX線CT画像から、その正常画像に関するTeaching fileを作成し、大学内のホームページにuploadする。
【方法】初めに、典型的正常解剖像を示すX線CT画像とパノラマX線写真を選定し、両画像をパソコン内に取り込んだ。取り込んだパノラマX線画像及びX線 CT画像は、ソフトウエアを用いて加工し、正常構造物のトレースを行った。パソコン内に取り込んだX線CT画像をi-movieを用いて動画を作製した。その後、ホームページ作製ソフトを用いてWebページを製作した。
【結果】大学内HPにて公開中。
【考察】我々が作成したTeaching fileには口腔顎顔面部の正常画像を多少知らないものでも容易に自学出来るよう諸処に工夫をこらした。パノラマX線写真では、正常構造物を示す線を容易に理解出来るよう、写真上にマウスを置くだけで、正常構造物の名称が分かるようにした。X線CT画像も同様の工夫を凝らし、容易に正常構造物の名称を把握出来るようにした。更には、立体的に画像を把握出来るよう動画を作成し、マウスクリックのみで連続画像を観察出来るようにした。

楠山 譲二, 鹿児島大学歯学部, 5年生

酸処理を施したチタンと陶材の間の接着力

市販用純チタン(cpTi)やその合金は多くの歯科補綴装置に利用されている。前歯部の修復に使われる場合、チタンは陶材のような審美材料によって覆われるのが一般的である。そこで陶材との間で良好な接着力を得るために、新たにチタンの適切な表面処理を開発することが必要とされている。この研究では、cpTiと陶材との間の接着力における高濃度の硫酸によるエッチング処理の影響をISO 9693によって調べた。その結果、硫酸によるエッチングはサンドブラスト処理と同じ程度の接着力の向上を示した。酸エッチングはチタンに対してより細かな表面組織をつくり出したが、サンドブラスト処理と比較して陶材との接着力に有意な影響をもたらすことはなかった。これは熱処理によるチタンの酸化によって、陶材とチタンとの間のマイクロメカニカルな連結が消失したため、その結果、酸エッチングによってできた微細な孔が有効に機能しなかったためと考えられる。

呉 鑫, 大阪大学歯学部, 4年生

破折オールセラミック修復物からの非破壊検査法の提案

オールセラミック修復物は審美性に優れているが、臨床上において破折やチッピングが生じると、口腔内では修理ができないため、撤去し再製する必要がある。しかし、ジルコニア系のコアーで製作したオールセラミック修復物は撤去が困難で、歯科医師や患者さんに大きな負担を与えているのが現状である。本研究の目的は、破折やチッピングが起こったオールセラミック修復物を分析して破壊の原因を究明し、セットする前に破折やチッピングの発生部位を非破壊検査により予測するシステムを提案することである。オールセラミック修復物の破折やチッピングの原因は人為的な設計ミスと築盛時の気泡の存在であった。ブリッジの連結部の形状設計やコアーの形態などの設計ミスや気泡の存在は、X線CT像により形態や大きさを計測することができた。そのため、X線CT像により臨床で破折する可能性がある修復物をセットする前に再製させることにより、臨床での破折等を防止できることが分かった。以上のことから、X線CT装置をオールセラミック修復物の非破壊検査装置として使用することにより、臨床での破折やチッピングを低減できることが示された。

黒田 真美, 奥羽大学歯学部, 5年生

高齢者の口腔カンジダ症予防のための口腔ケアシステムの開発

高齢者の口腔内に存在するCandida albicansは、口腔カンジダ症をおこす危険性がある。高齢者の口腔ケアを考える場合にはC. albicansのコントロールは重要な課題である。そのため、安全で効果的な口腔ケア器材の開発が望まれているので、私は植物由来の精油を口腔ケアシステムに利用することを考えた。
in vitroでC. albicansに各種の精油を加えて培養するとバイオフィルムを形成したC. albicansに対してはCymbopogon citratusが抑制効果を示した。しかし、Cymbopogon citratusの抑制効果も唾液の添加によって減弱した。この結果はCymbopogon ccitratusによる抑制効果を高めるためには唾液を除去した状態で口腔内に塗布する必要を示している。
したがって、精油による口腔カンジダ症の予防には、可能な限り唾液を除去して精油を塗布するようなシステムの開発が必要となる。そこで、私は唾液を可能な限り除去してCymbopogon citratusを舌表面に塗布するシステムを開発した。

坂野 深香, 昭和大学歯学部, 4年生

歯髄細胞に発現する遺伝子の網羅的解析

咬耗や、齲蝕の刺激によって修復象牙質が形成されることから、歯髄組織中には未分化間葉系細胞が存在し、状況に応じて象牙芽細胞に分化すると考えられている。我々は、歯髄細胞の性質を明らかにするため、DNAマイクロアレイを用いて歯髄細胞に発現する遺伝子を網羅的に解析し、軟骨細胞や骨芽細胞における遺伝子発現様式との比較から、歯髄細胞に特異的に発現する遺伝子を抽出した。その結果、歯髄細胞に特徴的に発現する遺伝子群を同定することができ、その中には細胞分化に深く関与することが示唆される遺伝子群が存在した。これら遺伝子の歯髄細胞における役割を検討する目的で、歯髄細胞初代培養系を用いて各遺伝子の発現変化を経時的に解析したところ、転写因子であるSp6とMsx2は培養経過に伴い発現が上昇し、細胞骨格タンパク質であるNestinと Transgelinの発現が低下していた。これらの遺伝子は、歯髄細胞の分化や機能発現を調節している可能性があり、今後、歯髄細胞の特性を明らかにする上で有用と考えられる。

高西 桂, 神奈川歯科大学, 5年生

噴霧式塩化亜鉛製剤の口臭抑制効果とその持続時間に関する研究

口腔内気体(以下、口気と称する)中の揮発性硫黄化合物濃度(以下、VSCと称する)を指標に、生理的口臭に対する消臭効果と消臭持続時間を噴霧式塩化亜鉛製剤を用いて二重盲検法、交差研究により検討した。起床時から飲食と口腔清掃を禁止した状態で口気中のVSCが検出される健康な成人男性8名を対象に H2S、CH3SH、(CH3)2Sの濃度を指標とした。1回噴霧量0.08ml の0.1%塩化亜鉛剤と偽剤を用い、噴霧前、噴霧直後、30分後、60分後、90分後、120分後において、呼気中のVSC濃度の変動を口臭測定器を用いて測定した。その結果、噴霧回数に関わらず、噴霧式塩化亜鉛製剤噴霧直後にVSC濃度は顕著に減少した。しかし、噴霧後30分後にはVSC濃度は上昇した。また、VSCのうちH2SとCH3SHを認知閾値以下に120分間確実に抑制させるためには7回の噴霧回数が必要であった。噴霧式塩化亜鉛製剤が優れた口臭抑制効果をもつことを示していると共に口臭抑制効果を2時間持続させる場合、最低7回以上の噴霧が必要であることが判明した。

竹山 旭, 大阪歯科大学, 4年生

タービン用グリップの開発

歯科医師は歯科治療において、大きな労力を使う。人間工学的に設計された器具を適切に把持することが、過剰な筋肉の負担を和らげることができうると考えられる。タービンにグリップを装着することによって、手の筋肉の疲労を減らし、使いやすくなるかどうかを評価することを目的とした。グリップは4種類を作製した。それぞれの断面は、小さい丸、大きい丸、三角、六角である。被験者には、固定した練習板をグリップ付きタービンで切削してもらった。終了後、アンケートを行った。さらに筋電図測定のため、被験者にはファントムに装着した模型を切削してもらった。使用感では、グリップの種類を問わずグリップを装着することで使いやすいと感じた人は全体の約90%を占めた。持ちやすさについては、グリップを付けたタービンの方が持ちやすい・握りやすいと感じた人は 87%であった。また滑りやすさについては、滑りにくいと感じた人は81%であった。丸グリップはグリップ非装着時に比べて筋電図測定値が約40%減少した。今回の結果より、適切な形、大きさ、感触のグリップは、作業の効率化にもつながり、筋骨格系障害を防ぐことができるのではないかと考える。

千原 隆弘, 松本歯科大学, 3年生

高血圧治療薬により生じた歯肉肥大の漢方薬薬物療法

高血圧治療薬のカルシウム(Ca)拮抗薬は副作用として歯肉肥大を起こす。今回はin vivoで歯肉肥大に対する漢方薬の治療効果について調べることを目的とした。
材料には24匹のWistar系雄性ラットを用いた。それらの半数(12匹)は事前にCa拮抗薬nifedipineの投与により歯肉肥大を生じさせておいた。更にその半数(6匹)はnifedipine投与を続け、残りはnifedipineに加えて漢方薬として柴苓湯を投与した。下顎切歯(以下、切歯と略す)および頬側歯肉を含む上顎左側第一大臼歯(以下臼歯と略す)を写真撮影し、それぞれ間隔および幅を測定した。組織病理学的検索にはHE染色およびアザン染色を用いた。
nifedipine群とnifedipine+柴苓湯群とを比較したところ、柴苓湯の添加により切歯間隔は6週以降で、臼歯幅は8週で有意に減少した。両群の上顎左側第一大臼歯頬側歯肉の病理組織像を比較した。nifedipine群で観察されたコラーゲン線維の増生、線維芽細胞の増殖、毛細血管の増加と拡張が柴苓湯の添加により抑制された。
柴苓湯投与はCa拮抗薬による歯肉肥大の臨床的治療に有効と思われる。

辻 千晶, 日本大学松戸歯学部, 5年生

口臭による歯周病の早期発見

本研究では、硫化水素、硫黄系、アンモニア系、有機酸系、アミン系、アルデヒド系、エステル系、芳香族系、炭化水素系の9種類のガスの臭気成分を分離検出できるにおい識別装置を用いて、歯周病患者の口臭検査を行い、歯周病早期発見への口臭検査の有用性を検討した。
歯周病患者と健常者の呼気を300ml採取し、におい識別装置を用いて9種類の基準ガス成分に対する口臭の臭気濃度および臭気指数を測定した。
歯周病患者から採取した口臭は9種類のにおい成分に分離され、硫黄系とアンモニアを除いた7種類のにおい成分の臭気濃度は健常者から採取した口臭と比較して高い値を示した。硫化水素、硫黄系、アンモニア系、有機酸系成分の臭気は歯周病原菌によるアミノ酸の分解産物であり、今回用いたにおい識別装置においても硫化水素および有機酸の臭気濃度の上昇がみられた。他の5種類のにおいの成分についても臭気濃度の上昇が認められ、簡易型臭気測定器を用いた揮発性硫黄化合物の臭気濃度だけでは、歯周病患者のにおいの成分を評価できないことが判明した。
以上の結果より、におい識別装置法は歯周病患者の早期発見に有用な手法であると考えられる。

常松 貴明, 広島大学歯学部, 5年生

転写因子Runx3は口腔癌の悪性度診断に重要である

近年、口腔癌は世界的に増加傾向にあり、世界では年間50万人の患者が発生し、全体の癌で5番目に高い癌である。口腔癌の早期発見・早期治療は、外科的侵襲を少なくし、患者さんのQOLを考える上で、非常に重要な課題となりうる。本研究で着目するRunx3は、Runt domain を有する転写因子で、胃癌において癌抑制遺伝子として働く一方、皮膚の基底細胞癌においては過剰発現することが報告されている。我々は、口腔癌における Runx3の発現とその意義について調べ、診断への応用について検討した。口腔癌細胞株や癌症例において、Runx3の過剰発現が高頻度に認められ、その発現は分化度や転移とよく相関していた。Runx3の発現の低い癌細胞にRunx3遺伝子を導入し、過剰発現させたところ、増殖能が亢進した。さらに、 Runx3の発現の高い癌細胞にRunx3 siRNAを導入し、その発現を低下させたところ、増殖能の低下がみられた。以上の結果から、口腔癌におけるRunx3の過剰発現は、細胞の増殖を亢進することにより、癌の進展に関わることが明らかとなり、Runx3の発現の検索は口腔癌の悪性度診断に有用であることが示唆された。

長野 祥子, 長崎大学歯学部, 4年生

新しく開発した睡眠時無呼吸症のための上下分離型口腔内装置

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、散発するいびきや無呼吸、低呼吸が特徴的な症状で、日中の傾眠や集中力の欠如、また不整脈等の生活習慣病との合併症を起こしやすく、まれには死に至る可能性も指摘されている。多くの保存的、外科的治療法があるが、近年閉塞性睡眠時無呼吸症(OSAS)治療の歯科的アプローチとして、スリープスプリントと呼ばれる口腔内治療装置が報告されている。これは顎を前方に誘導する主に上下顎一体型の装置であり、大きな治療効果があることが確認されているが、過度な装着感や下顎を咬頭嵌合位より前下方の非生理的な位置で固定されることによる顎関節への負担や嚥下、口呼吸障害等も指摘されている。これらの問題点を改善すべく、今回私は、上下顎分離型の新しい口腔内装置を開発した。これは開口時、安静睡眠時、いびき時の下顎の位置に違いがあると想定し、睡眠中にある程度の開口は出来るものの更なる開口を防ぐ、つまり安静時、開口時の下顎位より更に後退したいびき時の下顎位に変位するのを防止し、上気道の確保によりOSASを治療する装置である。

野澤 恩美, 新潟大学歯学部, 5年生

歯科用ユニットの汚染調査~治療環境は清潔に保たれているのだろうか?~

歯科医療の現場で頻繁に使用されるエアータービンなどによって、広範囲にミストが飛散することが知られている。私たちは今行っているユニット清掃で本当に汚染が除去できているのかどうかを疑問に思い、歯科治療の際に汚れる可能性のある歯科用ユニットとその周辺が、1日の外来診療の結果どの程度汚染しているかを調べた。各部位の細菌を生理食塩水で湿らせた滅菌綿棒を用いて採取し好気培養したところ、調査したすべての場所で細菌が検出され、特にテーブル、スピットン、ヘッドレスト、ユニット周囲の壁、キャビネットの上に多かった。さらに術者の着衣などからは診療後多くの細菌が検出され、特に帽子に付着する菌は多かった。また、一部からはカビも検出された。一方患者様が歯科治療環境の衛生に対してどのように感じているかをアンケートにより調査したところ、衛生面に懸念を持つ患者様はいらっしゃらなかった。現状でも危機的な状況であるとは言えないが、私達が実験時に80%アルコールで清拭したところ、検出される細菌は激減したことから、今後は患者様の信頼に応えるためにも、診療時のより丁寧な清拭を心がける必要があると思われる。

樋口 はる香, 東京歯科大学, 5年生

口腔乾燥症モデルマウスにおけるストレス適応酵素とチャネルの発現~唾液腺細胞の機能回復の手がかりを求めて~

唾液は口腔組織の保護、咀嚼・嚥下機能の補助、食物の消化準備や会話などにも役立っており、口腔の健康だけでなく、全身の健康にも寄与している。そのため、様々な原因によって唾液が減少する口腔乾燥症では口腔内症状だけでなく全身状態にも影響を及ぼし、患者のQOL低下を導く。本研究では、口腔乾燥症のいくつかの原因に共通するストレスに応答して細胞を保護するAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)とそのAMPKによって機能が調節されている唾液産生に関与するチャネルタンパク、CFTRとENaCに注目した。今回はX線照射により作製された口腔乾燥症モデルマウスを用い、AMPK、CFTRと ENaCの発現の関連性を明らかにし、機構回復への手がかりを得る一助とすることを目的とした。X線照射により顎下腺ではAMPKのmRNA発現上昇とリン酸化によるその活性化が認められ、AMPKが防護的な機能を持つことが示唆された。またENaCの全てのサブユニットの発現上昇も観察された。今後、 AMPKを介したチャネル機能の調節についてタンパクレベルで検討し、唾液分泌機能の調節維持との関係性を明らかにする必要がある。

深代 真以, 日本歯科大学 生命歯学部, 5年生

前処理手順がオールインワン接着システムの初期象牙質接着強さに及ぼす影響

レジン接着システムの適切な前処理は、より良い接着修復を得るために必要である。本研究の目的は前処理手順がオールインワン接着システムの初期象牙質接着強さに及ぼす影響を検討したものである。システムとして市販オールインワン接着システム一種を用いた。ヒト抜去健全大臼歯40本を水平断した象牙質を被着体とし、製造者指示書に基づく前処理法(P1;湿った象牙質面に5秒間ボンディング材を擦りながら塗布し10秒間放置後、再度5秒間擦りながら塗布を行い、微風乾燥)と一部条件を変えた7種前処理法(P2~8)、計8つの異なる手順を行った。接着強さを小型接着試験器にて測定(n=5)を行い、破断面破壊形態を観察した。P5(完全乾燥した象牙質に、P1と同様の前処理)の接着強さは他の7種前処理手順と比べ有意(p<0.01)に大きい値を示したが、その他の7種前処理間の接着強さ値は同等の値を示した。破断面は、界面破壊とボンディング材あるいはレジンでの凝集破壊からなる混合破壊を示したものの、その比率は処理法により異なった。乾燥させた象牙質面に製造者指示書の前処理手順を行うことは接着強さの向上に効果的であった。

山田 由加里, 徳島大学歯学部, 4年生

歯周炎治療のための局所投与型新規抗炎症剤の開発・ 歯小嚢細胞に対するピロリジンジチオカルバメイトアンモニウム塩(APDC)の影響 ・

歯周炎は主に歯肉溝や歯周ポケット中の歯周病原菌が原因で起こる炎症である。歯周病原菌由来のLPS刺激によりマクロファージや歯肉線維芽細胞が活性化され、インターロイキン-1(IL-1)などの炎症性サイトカイン、プロスタグランジンE2、間質コラゲナーゼなどが産生され、歯周組織破壊が起こる。 IL-1βは線維芽細胞にある受容体に結合し、そのシグナルが細胞内へ伝達されNF-κBを活性化する。NF-κBは、炎症反応において誘導される多くの遺伝子の発現に関わる転写因子である。歯周炎に対する薬物療法は、スケーリングなどの効果促進補助と急性症状の緩和のため、抗菌・静菌剤の局所投与か、沈痛・抗炎症薬の全身投与が主流である。そこで、局所でのシグナル伝達系をブロックすることにより炎症反応を抑える、局所投与型の新規抗炎症薬の可能性を模索した。今回、歯周組織の原基であるヒト歯小嚢由来の線維芽細胞にIL-1βを作用させて炎症を誘導し、NF-κB阻害剤であるAPDCによる抗炎症作用がみられるか検討した。その結果、ヒト歯小嚢由来の線維芽細胞においてIL-1βで誘導される炎症反応は APDCにより抑制される可能性が示唆された。

横石 智哉, 日本歯科大学 新潟生命歯学部, 4年生

禁煙補助器具の開発~喫煙の悪影響可視化による禁煙モチベーション強化法~

本学では積極的に禁煙推進運動を行っている。これらの一環として、今年度より敷地内全面禁煙が始まったが、いまだ喫煙者は多い。今回我々は喫煙の口腔内への着色を短期間で明視化できる装置を作製し、喫煙の害を視覚的に認識させることを目的に研究を行った。喫煙者にクリアレジンが貼付されたマウスピースを喫煙時のみ装着させた。一週間後、色彩計を用いたL*a*b*法で汚染度を測定した。また、被験者及び無作為に抽出した学生を対象に、使用後の実験装置を用いたアンケート調査を実施した。結果、レジン部分の汚染度は、照度で見た場合、有意に汚染されていることが客観的に確かめられた。アンケートでは、全回答者の91.3%が使用後のマウスピースを汚いと回答した。また、喫煙者の70.4%が喫煙の継続を否定し、非喫煙者の総てが今後の喫煙の可能性を否定した。
実験結果より、短期間で視覚的に喫煙の悪影響を提示することは、禁煙モチベーション強化に繋がることがわかった。現在日本では、様々な禁煙活動が行なわれている。我々は、口腔内の専門家としての知識と技術を活かした禁煙支援活動を行うべきだと考えている。

カテゴリー: 未分類 タグ:

第12回大会

2006 年 8 月 23 日 コメントはありません

第12回大会 2006年(平成18年)8月23日 参加校 19校
タイトルおよび発表内容要旨 (入賞者を除き発表者氏名50音順)
※氏名・所属・学年は発表当時

優勝:大迫 俊光, 北海道医療大学歯学部, 5年生

チェアサイドで使用可能な簡易型偏性嫌気性菌培養キットの開発

感染根管内から検出される菌種のうち約70?80%は嫌気性菌である。しかし、嫌気度要求の高い偏性嫌気性菌を培養するには高価で大掛かりな嫌気グローブボックスが必要であり、現状ではチェアサイドで行うことは非常に困難である。よって、我々はチェアサイドにおいて簡便に偏性嫌気性菌を培養できる簡易型嫌気培養キットの開発を試みた。まず、感染根管から分離同定される頻度、病原性が高いとされる偏性嫌気性菌を含む5菌種を選択した。それら5菌種を用いて嫌気グローブボックスで培養した結果とキットで培養した結果を比較した。また、臨床資料を採取しキットを使用して培養を試みた。その結果、簡易型嫌気培養キットと嫌気グローブボックスでは同じ結果を得た。さらに、このキットでは、培地に添加したpH指示薬の色調変化により、細菌の存在の有無の判別が可能である。よって、我々が開発した簡易型嫌気培養キットを使用することで根管内に存在する嫌気性菌を、チェアサイドにおいて簡便に検出することが可能であると考えられ、今後感染根管治療の精度の向上に極めて役立つと期待される。

第2位:福田 幹久, 日本大学歯学部, 5年生

抗rGTF-I抗体はS. sobrinusのスクロース依存性付着を抑制する

Streptococcus sobrinus由来のグルコシルトランスフェラーゼ-I(GTF-I)は、スクロースを基質として粘稠性の高い不溶性グルカンを産生し、菌体の歯面への付着や定着において重要な役割を演じている。その為、GTF-Iの作用を阻害することは、齲蝕予防のための効果的な手段のひとつであると考えた。そこで、本研究では、S. sobrinus(MT8145)のGTF-I遺伝子をEscherichia coliに導入し、GTF-Iをリコンビナントタンパク(rGTF-I)として合成した。その後、得られたrGTF-Iをウサギに免疫して抗GTF-I抗体を作製した。S. sobrinusのスクロース依存性付着に及ぼす抗GTF-I抗体の抑制効果は、ガラス試験管壁への菌体付着実験によって評価した。非付着菌および付着菌量をOD550値として測定し、これを用いて菌体のガラス面への付着率を算出した。その結果、スクロース存在下で培養した際にはガラス試験管壁面に顕著な S. sobrinus菌体の付着を認めたが、培養時に抗rGTF-I抗体を添加することによって、菌体付着は著しく抑制された。したがって、rGTF-Iは、 S. sobrinusによる歯面プラーク形成を阻害する抗体を作製するための、きわめて有効なタンパク抗原のひとつであることが示唆された。

第3位:小山 拓馬, 鶴見大学歯学部, 5年生

新しい口腔湿潤剤の開発

高齢全部床義歯装着者が抱える問題解決を目的とした新しい口腔湿潤剤の開発を行った。問題とは、口腔乾燥、義歯性口内炎、義歯安定剤の使用である。開発コンセプトは 1. 維持力の向上、2. 義歯の機能低下を生じない、3. 抗カンジダ作用を有すの3点とした。維持力向上には、高粘度の素材が求められることから、素材を根コンブより抽出し、唾液の粘度と比較した結果、有歯顎者:7.3mPa・s、無歯顎者:6.0mPa・s、保湿剤:1.0mPa・sに対し、根コンブ水:13.1mPa・sと十分な粘度を示した。義歯の機能では、咬合接触面積は義歯安定剤(クッションタイプ)は増加、義歯安定剤(クリームタイプ)は減少、根コンブ水は、ほとんど変化しなかった。抗カンジダ作用では口腔ケア用品に用いられる植物に着目、7種類の植物から抽出した精油のカンジダへの効果を検討した結果、ディスク法でクロモジのみ抗カンジダ作用が認められ、Candida albicansに対するMICおよびMBCは3.3%であった。以上、コンブ水およびクロモジオイルを用いて、高齢全部床義歯装着者の抱える問題点を解決できる新しい口腔湿潤剤開発の可能性が示唆された。

伊川 裕明, 東京歯科大学, 6年生

骨芽細胞を標的とする歯周炎治療:歯周病原性細菌の菌体成分による骨芽細胞機能調節と臨床的歯周炎疾患像

歯周炎は幾つかの症候に分類され、様々な危険因子によって発症し進行する疾患群である。歯周ポケット内のグラム陰性嫌気性菌に由来する菌体成分は歯周組織細胞に対して直接的に作用することで細胞障害を引き起こし、結果としての歯周組織破壊を招く。今回我々は、慢性歯周炎・侵襲性歯周炎・急性壊死性潰瘍性歯肉炎 (ANUG)に関与するP. gingivalis (Pg)、A. actinomycetemcomitans (Aa)、T. forsythus (Tf)、T. denticola (Td) 菌体成分破砕分画上清が骨芽細胞の細胞膜Ca2+流入に対しどのような効果を持つか検討した。その結果、骨芽細胞のCa2+流入がPg、Aa、Tf菌体成分によって抑制された一方で、Td菌体成分はCa2+流入を増加させた。急激な骨吸収を示す侵襲性歯周炎を誘発するAa 菌体成分はCa2+流入抑制を示し、一方で骨吸収を示さないANUGを誘発するTd 菌体成分ではCa2+流入を増加させる。慢性歯周炎では、Ca2+流入を抑制するPg, Tfとそれを増加させるTdの菌体成分が、骨芽細胞の細胞膜Ca2+流入調節に対して相反的に作用する結果として中程度の骨吸収を示すのかもしれない。したがって、各菌体成分の細胞膜Ca2+流入調節機構とそれぞれの歯周炎疾患群との比較は、宿主細胞の反応を根拠とした新しい診断基準の確立を可能とするかもしれない。

井田 有希子, 日本歯科大学新潟生命歯学部, 4年生

介護医療における口腔ケア器具の開発(在宅介護への応用の可能性)

現在日本は急速に高齢化が進み、介護の必要な高齢者も又増加している。口腔内が不衛生であることは誤嚥性肺炎を発症させる原因となる。そこで、口腔ケアをより効果的にする新しい介護用歯ブラシの研究・開発を行い、その有用性について検討した。 臨床での口腔ケアの現状を把握するため介護施設の訪問及びアンケートを行い、現状は十分な口腔ケアが行えていない事が分かった。そして、実際に口腔ケアを行っている方の意見を参考に新しい介護用歯ブラシを製作した。開発品と市販品を比較・実験したところ、開発品は①吸引困難な痰なども吸引可能②ゴム枠による汚水の残留防止③注水により粘着性物質の除去効果向上④術者の負担軽減⑤個々の患者への調節可能という利点が挙げられた。これらより、清掃効率の大幅な向上、汚染物質の誤嚥防止、処置時間の短縮、携帯性の向上、結果として誤嚥性肺炎の防止に貢献できる事が示された。 今回の開発は、口腔ケアを簡便・身近にした。また誤嚥性肺炎の予防に役立ち、口腔ケアの重要性を広めるきっかけになった。今後、医療現場において歯科医師の知識がより幅広く活用され、医科と歯科の連携が強化されることを期待する。

奥野 美穂, 徳島大学歯学部, 4年生

唾液を用いた免疫動態テスト法の開発

唾液腺から分泌される唾液は口腔内を湿潤状態に保ち、摂食、嚥下、会話に不可欠であると同時に、抗菌作用など生体の恒常性維持に様々な重要な役割を果たしている。唾液中には水の他に、様々な生理物質などが含まれることが知られている。一方で、唾液は口腔粘膜を保護するという観点から、粘膜免疫における生体防御に重要な因子であるが、唾液中に存在する免疫細胞の詳細については知られていない。そこで、本研究では唾液中に存在する免疫細胞の有無やその機能について詳細に観察したところ、正常なマウスの唾液中には免疫細胞が存在し、粘膜免疫の恒常性維持機構に関与していることが示された。また、シェーグレン症候群に伴い唾液中に活性化T細胞などが出現してくることが明らかになった。以上のことから、唾液中のIgA量や免疫細胞の同定が唾液腺の免疫動態を知る上で簡便なテスト法としての臨床的意義を有していることが示唆された。

川嶋 理恵, 日本歯科大学生命歯学部, 5年生

患者様が心から癒される歯科医院を目指して~Cure and Care~

歯科診療所の環境を整える事により、患者様の治療に対する不快感を軽減できる事が知られている。本研究では、患者様にとってどのような環境が快適かを検討した。診療室と待合室に焦点を当てるために、7軒の歯科診療所の協力を得て、患者様60人(平均53.0歳)に視覚・聴覚・診療において重要視している事の3点を問うアンケート調査を実施した。また開業歯科医師30人に診療所の実態に関する回答をいただいた。患者様と歯科医師の間に診療室の快適性に関する意識の違いがあるかどうかを検証した。さらに、日米の歯科医院の環境の差についても調査した。これらより、患者様の心理面に働きかけるような工夫点を検索した。歯科診療において患者様も歯科医師も最重要視しているのは技術であったが、私達の予想以上に、患者様にとって医院の雰囲気や歯科医師の人間性が重要であることが示唆された。

黒田 真美, 奥羽大学歯学部, 4年生

嚥下性肺炎の実験モデルの開発とプロバイオティクスによる肺炎の予防

嚥下性肺炎は口腔内の微生物が原因菌となる場合が多く、高齢者の死亡原因の上位を占める重大な疾患である。しかし、その発生メカニズムの解析や治療法の開発に必要な実験モデルは開発されていない。そこで我々はヒトの嚥下性肺炎のマウスモデルの開発を試みた。さらにそれを使用して、ヒトに有益な微生物を利用した新たな感染症に対する治療法であるプロバイオティクスを嚥下性肺炎の予防と治療に応用することを検討した。その結果、Candida albicansをマウスの舌に定着させると、その一部は嚥下されて肺に炎症症状をおこした。そして、Lactobacillusを舌に接種した場合は舌に定着したCandida albicansの数が有意に減少した。以上の結果から、我々が開発したマウスモデルを使用することでLactobacillusによるプロバイオティクスが嚥下性肺炎の予防と治療に有効である可能性が示唆された。

澤田 紘美, 昭和大学歯学部, 4年生

臨床経験から発案した、微粒子シリカ混和による歯面研磨剤の作成

近年、歯に対する美意識の向上から、美しい歯面を維持するための歯面研磨処理が日常臨床で行われている。しかし、粗研磨から仕上げ研磨までと、そのステップは多く、開口を長時間維持することで患者に負担がかかる。また、術者の技量によってその歯面には差ができると考えられる。私たちは、粗研磨剤(研磨成分として100μmシリカを含有)に仕上げ研磨剤(同じく1μmシリカを含有)を混和すると、シリカが歯面に接触する面積が大きくなることで、効率的な研磨が行えると予想し、実験を行った。その結果、粗研磨剤に微粒子シリカを適正な重量比%で混和した研磨剤の使用で、傷がほとんど見られない滑沢な歯面が得られた。この研磨剤は1ステップの研磨で美しい面が得られるので、患者への負担が軽減され、臨床において有効であると言える。

信田 智美, 新潟大学歯学部, 5年生

咀嚼・嚥下時の複雑な舌運動を超音波で可視化する試み

舌は咀嚼や嚥下にとって重要な機能を担っており、咀嚼・嚥下障害の原因の一端を舌の運動障害が担っていることも多い。今回私達は、エックス線被曝がなく、安全性の高い超音波診断装置を用いて咀嚼・嚥下中の舌運動を可視化することを試みた。顎口腔機能が正常な本学の学生を対象に、色々な濃度、硬さの食品を咀嚼・嚥下させて、舌運動の様子を超音波診断装置にて観察した。その際、食品の種類と舌運動との関連性についても調べた。その結果、超音波診断装置により、舌運動を大まかに捉えられることが分かった。記録した舌運動を分析したところ、4つの特徴的な動きが抽出されたが、多くの場合、舌運動は単一動作の連続ではなく、複数動作の組み合わせによって構成されていることも明らかになった。さらに、咀嚼時の舌運動は様々な条件により多様なパターンを呈した。今後は咀嚼・嚥下障害を有する場合の舌運動パターンを分類し、障害のある部分を抽出して診断に結び付けられるようにしたい。また、舌運動の解析によって、それぞれの病態に適した食品を選ぶことが可能となり、新たな介護食の開発ができることを望んでいる。

河野 多香子, 大阪歯科大学, 4年生

トロミ調整剤の簡易的な粘弾性測定器具の開発

嚥下障害患者の食事には、とろみをつけて飲み込みやすくするための嚥下補助食品として、トロミ調整剤が多く用いられる。このようにとろみをつけた食品は、一定の物性のものを日々再現性よく調整するべきであり、粘度計などで粘度を計測しながら行うことが望ましい。そこで、ベッドサイドや厨房で粘弾性を簡便に再現できる器具を試作し、その有用性を検討した。本実験では、市販プラスチック製スプーンのさじ部分に直径7mmと直径11mmの大きさの穴を開けた粘弾性測定器具を作製し、トロミ調整剤の粘度を調整しその粘弾性を周波数によって示した。さらに、嚥下障害患者の障害に応じた3段階の粘弾性も明らかにした。今回作製した簡易粘弾性測定器具を使用することで、嚥下障害の程度にあわせたトロミを非常に簡単な操作で調整できた。この簡易粘弾性測定器具を使用することで、嚥下障害患者の嚥下食におけるトロミの調整の適切化と医療スタッフ間で共通のトロミの尺度を持てる。したがって、食事療法・食事介助の質の向上につながると言える。

中島 雅典, 広島大学歯学部, 6年生

府内江戸時代人における頭蓋顔面形質の都市化

ヒトは生まれた環境の中で成長し生活するため、その生活様式から強く影響を受けると考えられる。環境からの受動的な影響は身体の生理学的な適応を促し、その一部は骨や歯牙といった硬組織に痕跡として残される。近世にあたる江戸時代、府内江戸の人口は最盛期には100万人以上であったと推算され、当時世界一の大都市として、一般庶民(町人)の生存密度は非常に高かったことは容易に想像できる。そのような都市の生活環境は、ヒトの形質に何かしら影響を及ぼしているのではないかと考えられる。本研究では府内江戸庶民集団である池之端七軒町遺跡出土人骨を用い、頭蓋顔面における形質の都市化の発現を検討した。成人男性人骨167体を形質人類学方法で計測し、考古学的資料から埋葬時期を4期に分けて計測値の時代変化を統計学的に分析した。単変量解析の結果、江戸時代を通じて、脳頭蓋では水平方向に拡大するとともに、相対的に後頭部の拡大が認められた。顔面頭蓋では縦方向に拡大(高顔化)傾向と眼窩の大型化が認められたが、上・下顎および口腔領域では有意な変化は認められなかった。

中村 文彦, 愛知学院大学歯学部, 4年生

日本におけるデンタルフロスの使用の現状とその口腔衛生学的対応

日本のデンタルフロス使用率が世界の先進諸国のなかでこれほど低いという理由を明らかにする目的で、中・高・大学生の使用状況調査、歯科医師の指導状況調査、市場調査、及びデンタルフロスの物性テストを行った。 ① デンタルフロスを一日一回以上使用する者は中学生が0~4.3%、高校生が2.4~5.6%、大学生が3.8~4.8%であった。 ② デンタルフロスが陳列されている店は、コンビニ31.3~54.2%、薬局63.6~92.3%、スーパー・マーケット40.0~75.0%であった。 ③ 診療所で患者にデンタルフロスを勧めているのは26.1%であった。 ④ 歯科医師自身のデンタルフロス使用率は1日2回以上14.1%、1日1回23.4%、1週間に1回以上15.8%、1ヶ月に1回8.6%、使用しない者は36.8%であった。以上から国民・患者のデンタルフロス使用率を上げるためには歯科医師自身がその意義を認識して使用すること、さらにその歯学教育の中での教育の充実が必要であると結論された。

野村 昌弘, 鹿児島大学歯学部, 5年生

笑気吸入鎮静法および音楽の中枢神経・自律神経・循環動態に及ぼす影響

笑気吸入鎮静法および笑気吸入にクラシック音楽鑑賞を併用した精神鎮静法が中枢神経系、自律神経系、循環動態に及ぼす影響を検討した。有志健康成人20人に、安静時、30%笑気吸入時、30%笑気吸入とクラシック音楽鑑賞併用時においてTP、Mean HRT、LF、HF、Normalized LF、Normalized HF、LF/HF ratio、血圧、心拍数、1回拍出量、心拍出量、全末梢血管抵抗、BIS値を測定した。音楽鑑賞にはモーツァルトの「アイネクライネナハトムジーク」、バッハの「G線上のアリア」、ヴィヴァルディーの「四季~春~」を用いた。本研究においてTPは減少傾向を示した。心拍数は有意に減少した。また、 Normalized HFはわずかに増大し、Normalized LFやLF/HF ratioはわずかに減少した。一方、血圧、1回拍出量、心拍出量に変化はみられなかった。それに対して、笑気吸入鎮静法や音楽鑑賞により有意な心拍数の減少がみられた。これらの結果は、笑気吸入鎮静法に音楽鑑賞を併用した精神鎮静法が交感神経系を抑制し、副交感神経系を賦活したためであると考えられた。

坂東 康彦, 明海大学歯学部, 4年生

Methotrexateによる口腔細胞傷害性の誘導と細胞死のタイプ

Methotrexateは葉酸の構造類似体であり、細胞周期のS期の細胞に作用し、ヌクレオチドの合成を阻害し、細胞の増殖を抑える抗腫瘍薬である。今回の研究では、まずMethotrexateの細胞毒性と腫瘍細胞選択性を調べた。ヒト口腔扁平上皮癌細胞とヒト口腔正常細胞に作用させてその毒性を測定した。薬剤の作用時間を変え、細胞生存率の濃度依存性を調べ、CC50値を特定した。比較のために、ヒト白血病細胞、ヒト肝癌細胞、ヒト脳腫瘍系細胞でも同様の実験を行った。ここまでの結果として、すべての癌細胞で、ある濃度を境に細胞毒性が発揮され、時間とともに生存率も低下したが、その感受性に差が見られた。今回の実験では、白血病細胞>口腔癌細胞>肝癌細胞>脳腫瘍系細胞の順となった。正常口腔細胞においてはいずれも毒性がほとんど見られなかった。癌の細胞死は、従来からapoptosisとnecrosisが議論されてきたが、最近autophagyも議論されてきている。今後、 Methotrexateによる口腔癌細胞の細胞死がどのような機構であるかを調べ、それも発表したいと考えている。

星島 光博, 岡山大学歯学部, 5年生

CCN2/CTGFのCT領域はフィブロネクチンと相互作用し、α5β1インテグリンを介して軟骨細胞の細胞接着を高める

結合組織成長因子(CCN2/CTGF)は軟骨で強い発現を示し、軟骨細胞の分化、増殖、接着、運動を制御している。CCN2/CTGFの多様な機能は知られつつあるが、その機能を調節する分子や特異的受容器に関しては未だ知られていない。我々はこれらの解明が様々な骨・軟骨形成に異常をきたす疾病の治療に貢献できると考え、CCN2/CTGFに結合する分子の同定と機能解析を目的とした。 Yeast-two Hybrid法を用いた軟骨細胞系細胞株HCS-2/8のcDNAライブラリーのスクリーニングから、CCN2/CTGFと相互作用を示すタンパク質の1 つとしてフィブロネクチン1が得られた。さらに、CCN2/CTGFが濃度依存的にフィブロネクチンとHCS-2/8細胞の接着を促進することを証明し、この接着がC末端領域によりα5β1インテグリンを介して行われていることを明らかにした。これらの結果は軟骨細胞接着機構の制御に応用でき、軟骨細胞の異常に起因する疾病の治療薬開発等に貢献できる可能性を秘めている。

矢富 真希子, 松本歯科大学, 3年生

歯ブラシによる舌粘膜細胞からのDNA抽出簡便法

近年ヒトのDNA解析が進む中、遺伝子と口腔疾患との関連を追及していくことは重要である。それユえ遺伝子の一塩基多型を分析するうえで被験者からのDNA採取が必須である。将来、歯科診療所での採取が一般的に行われるようになるであろう。それには患者に不安や痛みを与えることがないように簡便で安全な方法が要求される。本研究では舌表面を歯ブラシで10回擦過し剥離細胞を採取した。剥離細胞にタンパク質分解酵素を加えた後、フェノール処理とエタノール沈殿によってDNAを抽出し、電気泳動にて確認した。これまで遺伝子診断を診療室内で行う時、従来は静脈血からのDNA採取が一般的であった。しかしこの方法では精神的、肉体的侵襲が伴い、感染の危険性もある。今回報告する方法ではそれらを最小限に抑えることができ、遺伝子解析に十分なDNA量 (60.0±6.0mg) を抽出することに成功した。

山﨑 隆一, 神奈川歯科大学, 5年生

PSA唾液検査は前立腺癌を発見できるか

目的:口腔の付属腺である唾液腺は、歯科医が医療行為を行える臓器である。しかし、歯科医の唾液・唾液腺に対する臨床的applicationの開発の試みは依然少ない。一方、前立腺癌は男性特有の悪性腫瘍で、食生活の欧米化に伴い増加傾向を示している。また、多くの腫瘍マーカーにおいて、最も信頼性の高いのが前立腺癌腫瘍マーカーのPSAである。本研究では、従来行われてきたPSAの血液検査を唾液検査で代替できる可能性を検討したので報告する。材料・方法:オス6WのSCIDマウス6匹を用い、ヒト前立腺癌培養細胞株LNcapを皮下に移植した。移植後、0.2cm以上2cm以下の各大きさで腫瘍および顎下腺を摘出し、液体窒素で凍結した。また、心臓より血液を採取し血清を調整した。血清および凍結試料は、抗ヒトPSA 高感度ELISAを用いてPSA濃度を測定した。結果:コントロールマウスの唾液腺内PSAおよび血清PSAは感度以下であり、PSA濃度は0であった。一方、腫瘍移植マウスの唾液腺PSAは 2.5ng/ml、血清PSA54.4ng/mlであり腫瘍移植後PSAが検出された。考察:前立腺癌が移植されると唾液腺組織内にPSAが認められるようになることから、前立腺癌の存在を唾液検査でスクリーニングできる可能性が示唆された。

鷲巣 太郎, 北海道大学歯学部, 6年生

人工複合糖質高分子によるStreptococcus mutansの増殖阻害

口腔内細菌はある種の糖を栄養源として利用し、また歯質へ付着する初期段階では、イオン結合・疎水結合等の結合が関与するが、その中に糖鎖?レクチンによる選択的相互作用があることも知られている。本研究では、増殖阻害剤や付着阻害剤などへ向けS.mutans(JC2)と人工複合糖質高分子の相互作用を検討した。各種人工複合糖質高分子添加ではS.mutans増殖に対して、側鎖の糖鎖構造により大きく依存し、PV-GlcNAcのみが増殖阻害を発現した。また、静置時間の経時的検討では、5分間でほぼ、30分間で完全な増殖阻害を示した。SEMや蛍光顕微鏡観察の結果より、増殖阻害は菌体表面への付着により開始することが分かった。人工複合糖質高分子の1つであるPV-GlcNAcによりS.mutansの表面に何らかの変化をもたらし、菌溶液への添加から5分程度で発育がほぼ阻害されることが分かった。詳細は不明であるが選択的な糖鎖認識機構の関与が推測された。これらのことより、人工複合糖質高分子のS.mutansに対する発育阻害剤の可能性が示唆された。

カテゴリー: 未分類 タグ:

第11回大会

2005 年 8 月 10 日 コメントはありません

第11回大会 2005年(平成17年)8月10日 参加校 22校
タイトルおよび発表内容要旨 (入賞者を除き発表者氏名50音順)
※氏名・所属・学年は発表当時

優勝:宇波 雅人, 日本歯科大学新潟歯学部, 4年生

デジタルカメラにおけるマクロ撮影の可能性(携帯カメラを含めて)

軽量で操作の簡単なコンパクトタイプのデジタルカメラ(DSCタイプ)を用いてでも、口腔内撮影が可能ではないかと考え、市販されているDSCタイプや携帯電話に装備されたカメラ(CPタイプ)について装着する装置を新たに開発・製作し、口腔内マクロ撮影が可能かどうか検討した。カメラ本体に装備されたフラッシュを光源とするリング状の発光装置を、クリアタイプの即時重合レジンによって自製し、影を作る事なく明るい口腔内写真の撮影を行うことに成功した。日常臨床で口腔内撮影を行っている歯科医師ら35名に開発したカメラを使用してもらい、その有用性について問うたところ、画質について97%が十分満足である、携帯性・操作性についても97%超が有用であるとの回答を得た。今回開発したカメラを携帯電話の持つネットワーク機能と組み合わせることにより、訪問歯科診療制度や緊急災害現場における歯科医療でも、省電力で携帯性にすぐれ、瞬時に情報伝達が可能なマクロ撮影装置は有効であると考えられた。
今回の研究は、新たな歯科医療における画像の可能性を示唆するものと思われた。

準優勝:信田 智美, 新潟大学歯学部, 4年生

震災被災地における歯科医療活動の検証-歯学部学生だからできる支援活動を考える-

大震災を始めとする大規模自然災害は被災地に甚大な被害をもたらす。今回我々は、今後も起こりうる大規模自然災害の際に、歯科医療スタッフによる的確な対策を講じることを可能とするため、過去の実際の事例における歯科医療のあり方を検証した。昨年の新潟県中越大震災の際に、被災地の歯科医療活動に直接携わった歯科医療関係者に聞き取りを行い、同時に過去の災害時歯科医療に関する資料を調査し、状況を比較検討した。さらに今後同様の大規模自然災害が起こった際に歯科医療関係者が取り得る対策と、歯学部学生が関与できる部分について考察した。その結果、中越大震災では円滑な歯科医療支援が行われていた。一方、避難所に支給された食料の質的問題点が明らかとなった。食料が供給されても、口腔慢性疾患をもち摂食し難い方々がいるとすれば、食品の質を考慮する必要がある。そこで実際にどのような食品が適当かを調査検討したところ、地元企業の非常用食品が適当であるとの結論に達した。その味や食べやすさに関しては良好であったが、調理方法には若干の慣れが必要であり、我々歯学部学生でも食事支援であれば充分可能で、またその必要性は非常に高いと考えられた。

第3位:中村 彩花, 東京歯科大学, 6年生

第一大臼歯の前後的咬合関係の変化および乳臼歯における齲触経験歯数が下顎第一大臼歯の齲触罹患に及ぼす影響について;16年間の追跡調査

本研究は、下顎第一大臼歯の齲触罹患を出齦後から2か月間隔で調査するとともに、歯列の成長に伴う第一大臼歯の咬合関係の変化や乳臼歯の罹患経験と第一大臼歯の齲触罹患との関連性を解明したものである。調査対象は60名の小児の左右側下顎第一大臼歯120歯であり、16年間にわたる調査を行った。
その結果、齲触に罹患した下顎第一大臼歯は36歯(30.0%)であり、齲触罹患が最も多かったのは出齦後24~48ヶ月と、49~72ヶ月であった。しかし、その後も齲触罹患歯は増加し、出齦後14~16年経過しても齲触に罹患する場合があった。
咬合関係の変化別に齲触罹患率をみた場合、最も齲触罹患率が高かったのはClass2からClass2の咬合関係を示した歯牙(56.3%)であった。また、Class2の咬合関係の場合は出齦後10年以降であっても齲触に罹患する歯牙が多数存在した。次に、乳臼歯の齲触経験歯数別に下顎第一大臼歯の齲触罹患率をみた場合、乳臼歯の齲触経験歯数が多い小児ほど第一大臼歯の齲触罹患率は高率であった。以上の結果は、予防填塞の実施時期に関する今までの適応概念の再考を示唆するものである。

青山 典生, 東京医科歯科大学歯学部, 6年生

MRIを用いた顎顔面領域における血管系画像診断法の検討

顎顔面領域では、血管の走行が複雑で血流速度も多様であり、MRIによる血管撮像法(MRA)が確立されているとはいえない。本研究の目的は、近年開発された造影剤と高速撮像法を用いることで、顎顔面領域のMRAの最適な撮像法を検討することである。
血管内の至適造影剤濃度を調べる目的で、造影剤を希釈してMRAで撮像した。人工的に血管モデルを作成し、造影剤を流してMRAで撮像し、3次元的に良好な像が得られるかを調べた。造影剤の流速と信号強度の関係を知る目的で、この血管モデルを用いて造影剤の流速を変えてMRAで撮像した。併せて、フリップ角と信号強度の関係を調べた。
本研究結果から、造影剤を用いることで顎顔面領域でも良好な画像を得られる可能性があることがわかった。血管の走行や血流速度よりも、血液中の造影剤濃度が高い信号強度を得るために重要であると示唆された。
造影剤を用いたMRAでは、非常に短時間の撮像が可能であり、3次元的にどの方向の血流でも良好な画像が得られることがわかった。よって造影MRAは、顎顔面領域でも適用が可能であると考えられる。

今井 遊, 鶴見大学歯学部, 3年生

過酢酸の漂白効果

現在使用されているホワイトニング剤は過酸化物による酸化作用を利用したものである。しかしその漂白効果の信頼度は低い。そこでより身近で親しみのある物質、酢酸の過酸化物である過酢酸に注目し、その酸化作用を利用してのホワイトニング効果を検証した。
残渣や歯垢はスケーリングによって除去したヒトの切歯を4時間紅茶の溶液に浸した。その後ティッシュでぬぐい、プラスチックのフタに固定し、サンプルとした。
リン酸緩衝液で0.09%に希釈した過酢酸溶液または酢酸溶液に浸して25分および60分間室温に保った。分光光度計で測定し色差(⊿E)を算出した。
コントロールである蒸留水の色差は酢酸のものとほとんど同じであった。しかし25分で過酢酸の⊿Eは蒸留水では高くなった。60分では酢酸の⊿Eは顕著に上昇し、過酢酸の漂白効果が明らかに見られた。
また顕微鏡観察により歯面の損傷の程度を組織学的見地から検討する必要があると思われた。

梅田 まりこ, 福岡歯科大学, 4年生

痛覚過敏のメカニズム~カルシウムチャネルの関与について~

歯科における主訴の約80%は痛みである。その中で口腔領域における痛覚過敏、例えば抜歯、抜髄後に発生する非歯原性歯痛などは鎮痛薬や局所麻酔薬が無効とされ、その治療は臨床的に問題になることが多い。しかし、このような感覚異常の発症機序には不明な点が多い。末梢からの痛みの伝達は、知覚神経シナプスに存在する電位依存性Ca2+チャネル(N,P/Q,L型がある)で制御される痛覚伝導物質の開口放出により行われている。私は痛覚過敏のメカニズムを明らかにする為に三叉神経節と同様の一次知覚神経細胞が存在する脊髄後根神経節(DRG)におけるCa2+チャネルに着目し、糖尿病性痛覚過敏モデル動物を用い遺伝子発現の定量、免疫染色による解析を行った。
本研究により痛覚過敏動物のDRG細胞において、P/Q型Ca2+チャネルを発現する細胞と痛みを伝えるC線維を出す小型神経細胞の特異的な増加という結果が得られた。
結果より、ある種の痛覚過敏に対して選択的P/Q型Ca2+チャネルを遮断することによって痛みや疼痛過敏を抑制することが可能になることが示唆された。将来的に歯科領域における痛覚過敏症の治療法の開発にもつながると期待される。

岡澤 仁志, 朝日大学歯学, 2年生

国際交流プログラム参加経験が歯学部生の臨床実習と他の動機付けに与える影響のアンケート調査

本学歯学部が行っている国際交流プログラムの短期海外研修は、5学年の夏期休暇を利用し、海外の歯学部を訪問、学生との交流を図り、国際的見聞を広げ、国際感覚を持った学生の育成を目的としている。この短期海外研修の教育効果認識のためのアンケート調査を行った。対象は、平成17年度の本学歯学部6年生、短期海外研修経験者30人を含む141人である。質問は、1. 臨床実習への期待 2. 臨床実習で自分自身が直接やりたいこと 3. 将来の歯科医師像 4. 海外の歯科医療に対する考え 5. 生涯研修に関する考え 6. 患者さんが歯科医師に要求しているもの といったもので、短期海外研修経験者と非経験者に分け集計し、有意差の検定を行った。その結果、経験者、非経験者の間に優位差を見出すことはできなかった。しかし、短期海外研修が臨床実習、その他の将来展望に対して良い影響を与えている傾向を把握できた。それは、 2、4、5の質問の回答において、歯学部学生として勉強、課外活動といった生活の中で、短期海外研修の経験者は、歯科医師としての前向きな動機を持っていることが認識できた。

塩出 信太郎, 明海大学歯学部, 4年生

タマネギ(Allium cepa L.)抽出液のStreptococcus mutansに対する抗菌活性

抗菌作用が知られているタマネギの、Streptococcus mutans(S. mutans)に対する抗菌活性を調べたところ明らかな活性が認められた。そこで、この抗菌因子を精製同定することを目的とした。S. mutans ATCC25175を使用した。抗菌活性は、BHI培地に100 cfuになるように播種したS. mutansにタマネギ抽出液を添加し、37℃で24時間培養した後の O.D. 660を測定することにより求めた。抗菌効果は、タマネギ抽出液5%以上の添加で明らかに認められた。酸処理で失活しなかったがアルカリ処理で失活した。 100℃10分で失活したが、60℃30分では失活しなかった。proteinase K処理によるタマネギ抽出液の抗菌活性への影響は認められなかった。BD法によるクロロホルム抽出画分に抗菌活性が認められた。クロロホルム抽出画分を溶媒[クロロホルム:メタノール:酢酸(65:25:10)]を用いてTLCプレート上で展開したところ6つのバンドに展開され、抗菌活性はフロントラインのバンドに認められた。以上の結果から、タマネギに存在する抗菌活性物質は極性を有した脂質であることが示唆された。この研究結果は、タマネギに含まれる抗菌活性物質が齲蝕予防に有用で安全な因子である可能性を示唆している。

菊地 萌, 栄養成分解析による食習慣と歯周病との関連の検索, 4年生

栄養成分解析による食習慣と歯周病との関連の検索

近年の健康ブームにより、世界中で“食生活”への関心が非常に高まっている。特に生活習慣病が提唱されると、食習慣と様々な疾患との関連性が注目を集めるようになった。そこで今回我々は、食習慣と生活習慣病のひとつの歯周病との関連を明らかにしようと試みた。
本研究の被験者は健康な男女18名(平均年齢22.4歳)とし、喫煙者や抗生物質服用者など口腔への影響がある要因を持つ者を除外した。食習慣は、被験者にアンケートと食事記録を課して調査した。また、本研究では新しい試みとして、食事記録を基に理論的な数値を栄養素ごとに導きだし、個々の被験者の食習慣を評価した。歯周病の検査は、被験者にとって非侵襲性であり簡便に採取できる唾液検査と口腔内写真診査、また歯科医師による検診で行った。
その結果、規則正しい食習慣の被験者では歯肉炎が少なく、食習慣に片寄りのある被験者と比較して、より良い口腔状態が維持されていることが示唆された。
今回の研究によって少しでも多くの人々が食習慣を見つめ直し、それが口腔、さらには全身の健康管理への関心へとつながっていくことを期待する。

桜井 良子, 神奈川歯科大学, 6年生

唾液中のクロモグラニンA(CgA)および神経栄養因子(BDNF)はストレスレベルの判定に有効で咀嚼器官の活動にも反応する

目的:クロモグラニンA(CgA)神経栄養因子(BDNF)は、多くの組織にあるペプチドホルモンで、ストレスに反応することが知られている。本研究では、唾液中CgAおよびBDNFのストレス判定性、および咀嚼器官活動との関連性について検討した。
研究方法:本研究は成人ボランティアの協力で行われた。CgAおよびBDNFの測定は、ELISA法によって行った。ストレス負荷は、非常ベルを大音量で聞かせるという方法で、咀嚼器官の活動の効果はブラキシズム運動を行わせて調べた。
結果:唾液CgAのレベルはストレス負荷によって増加し、この増加は、咀嚼器官の活動によって抑制された。ヒト顎下腺でCgAが合成分泌されていることを確認した。唾液BDNFはストレス負荷で変動することが確かめられた。動物実験により、唾液腺のBDNF-mRNAおよびBDNF蛋白の発現、さらに唾液 BDNFのストレス性の上昇が確かめられた。
考察と結論:本研究の結果、唾液中のCgA、BDNFはストレスに顕著に反応し、ストレスレベルの評価に有効である可能性が示された。咀嚼器官はこれらのストレス性変化を制御している可能性が示唆された。

澤田 愛, 岩手医科大学歯学部, 6年生

糖質の供給が口腔の揮発性硫化物質産生に及ぼす影響

口臭には日内変動があることが知られており、起床時や空腹時には口臭がより強くなる。また、長期間の経管栄養患者が強い口臭を発することが経験的に知られている。これらのことから糖質の摂取を制限することが口臭の原因になるという仮説をたてた。口腔内の揮発性硫化物(VSC)産生に対する糖質供給の影響を検討するために、4―5時間絶飲食後にブドウ糖または蒸留水で洗口し、口中気体VSC濃度をガスクロマトグラフィーにより測定した。その結果、洗口5分後の平均VSC濃度はブドウ糖溶液洗口の場合、有意に低下したことから、短時間の糖欠乏状態に対する糖供給が口腔内でのVSC産生を抑制することが示された。さらに、口臭に対する糖質の効果をより直接的に検討するために、刺激唾液からのH2S産生量を測定した。その結果、ソルビトール添加によりH2S産生量は1/10~1/100に減少し、ブドウ糖により1/1,000以下、あるいは完全に阻害された。これらの結果から、定期的な糖供給が病的に強い口臭の発生を抑制するものと考えられ、糖欠乏状態の口腔に対して、適切な量の糖を供給することにより口臭をコントロールできる可能性が示唆された。

谷木 俊夫, 鹿児島大学歯学部, 5年生

チタンの表面改質によるレジン接着力の向上

我々はチタンの表面改質により、前装する硬質レジンとの結合強さを向上させる研究を行ってきた。本研究では、濃硫酸を用いてレジン前装の前処理としての応用を検討し、長期接着耐久性が認められたので報告する。市販純チタンを18%塩酸、43%リン酸、48%硫酸の3種の高濃度酸と4.8%硫酸によって処理した。酸処理を施したチタンとレジンの接着強さは、試料を水中に37℃で24時間浸漬後に測定した。さらに、5種のレジンと8種の処理をしたチタンとの接着強さを10,000回、20,000回の熱サイクル試験(4℃、1分 ─ 60℃、1分)前後で測定した。48%硫酸水溶液に60℃で60分間の酸処理のみを行った試料が全てのレジンに対して最も強い接着強さを示した。サンドブラストは接着耐久性において効果を示さなかった。真空焼成は全ての硬質レジンへの接着強さにおいて有意差がなかった。以上の結果より、濃硫酸による酸処理はレジンとの接着性に対する単純かつ効果的なチタンの表面改質であると結論づけられた。

谷詰 直穂, 北海道医療大学歯学部, 5年生

歯科用金属修復物・補綴物の歯冠色レジンによる審美コーティング

金属材料は、機械的特性が陶材やレジン系材料と比較して優れているが、色調が天然歯と大きく異なっており、審美性に関しては劣っている。そこで本研究では、金属の表層をポ-ラス化することによってレジンとの機械的結合を強化する技術を応用し、機能と審美性に優れたクラスプとリテンションビーズを有しない硬質レジン前装冠を製作した。14K金合金を用いてクラスプならびにブリッジを鋳造し、高温酸化と酸洗い処理を施すことによって、鋳造体の表層をポーラス化した。表面にフロアブルレジンを筆で塗布し、ポアの内部へ浸透したレジンを70℃で30分間加熱して重合した。その後、硬質レジンを築盛し、光を照射してレジンを重合した。完成したクラスプを作業模型に150回着脱してみたが、クラスプの弾性変形時に被覆した硬質レジンの破折や剥離は認められなかった。また、ブリッジの適合性は極めてよく、高温酸化処理時に金属コーピングの変形は起こらないことが確認された。これらの結果から、表層をポーラス化した合金とレジンとを強固に接合する技術を用いることによって、優れた機械的特性と審美性を合わせ持った新しい補綴物を製作できることが明らかとなった。

千原 育子, 松本歯科大学, 4年生

漢方薬を用いた歯肉増殖症の治療法の開発

歯肉増殖はカルシウム拮抗薬(ニフェジピン等)および抗てんかん薬(フェニトイン等)、免疫抑制剤(シクロスポリンA等)の副作用として起こることが知られているが、その原因療法は確立されていない。本研究では漢方薬の一つである紫苓湯が薬物による歯肉増殖を抑制するかどうかを解明することを目的として、紫苓湯の作用を培養細胞系を用いて検討した。ヒト歯肉線維芽細胞Gin-1にニフェジピンあるいはニフェジピンおよび紫苓湯を作用させ、細胞増殖および bFGF分泌量、?型コラーゲン産生量を定量した。紫苓湯はニフェジピンによるGin-1細胞の増殖、bFGF産生、?型コラーゲン産生を有意に低下させることが示された。今回の結果は、紫苓湯がメザンギウム細胞および特発性後腹膜線維症における線維芽細胞の増殖を抑制するという結果と一致している。また、本研究の結果からbFGF産生量の低下によりGin-1細胞の増殖が抑制されたと考えられる。これらの結果から紫苓湯がニフェジピンによる歯肉増殖の治療に対して有効である可能性が示唆された。

陳 資史, 大阪歯科大学, 5年生

もし、スポーツ中に歯が抜けたら-スポーツドリンクがヒト歯根膜細胞に及ぼす影響-

スポーツ中に思いがけず歯が脱落した場合、歯に残存する歯根膜が新鮮な状態を保持することが再植成功の重要な因子である。今回の実験ではスポーツ中に一番身近にあり、また比較的清潔な状態で脱落した歯が保存できるという点から、市販されているスポーツドリンクの保存液としての有用性に着眼した。保存液として、スポーツドリンクは5種(A~E)を選び、比較に牛乳を用いた。研究室で保存のヒト歯根膜細胞を用い、保存液中で30分から8時間保存した後、細胞形態、トリパンブルーによる死細胞の染色およびCellTiterによる生細胞の測定を行った。その結果、牛乳に比べ4種のスポーツドリンクでは1時間保存で約80%の生存が認められたが、保存時間が長くなるに伴い細胞は死滅していた。このような牛乳との違いを検討するため、各種スポーツドリンクのpHを測定した結果、すべてが約4であり、牛乳では約7であった。保存後洗浄を数回繰り返し、再び元の環境に戻しても細胞の損傷修復は不可能であった。歯の保存にスポーツドリンクをそのまま用いた場合、保存液としての有用性は低いことが示唆された。

月村 光志, 日本大学松戸歯学部, 5年生

コンポジットレジンと象牙質との接着におけるセルフエッチングプライマー処理の効果

コンポジットレジンと象牙質との接着におけるセルフエッチングプライマー(SEP)処理の効果を評価した。ヒト抜去歯を耐水研磨紙で研磨し、象牙質を露出させた後に、1)SEP処理後、ボンディング剤塗布(SEP群)、2)SEP処理を行わずにボンディング剤塗布(NON-SEP群)3)SEPとボンディング剤の混合液(1:1)で象牙質面を処理(SEP+BOND群)、のいずれかの処理を行った。その後、光重合型コンポジットレジンを充填し、光照射によりレジンを硬化させた。コンポジットレジン接着直後、および37℃の水中に1週間浸漬した後に、引張接着強さを測定した。SEP群の場合にはレジン接着直後で約7.6MPa、水中浸漬後でも約6.3MPaと統計学的に有意な低下は見られなかった。一方、NON-SEP群では、レジン接着直後では SEP群と同程度の接着強さであったが、水中浸漬1週間後では大きく低下した。また、SEP+BOND群では、直後および水中浸漬後、どちらも低い接着強さであり、SEPの効果は発揮されなかった。
以上の結果から、SEP処理はコンポジットレジンと象牙質との接着に有効な役割を果たしていることが判明した。

西野 仁, 大阪大学歯学部, 3年生

食物由来ポリフェノールは歯周組織再生誘導因子で刺激した歯根膜細胞を歯周病菌の感染から保護する

エナメル基質抽出物(enamel matrix derivative; EMD)は歯周外科臨床に用いられている組織再生誘導因子である。これまでの研究から、歯周病菌Porphyromonas gingivalis (Pg) は培養歯根膜細胞(PDL細胞)へのEMDの効果を著しく阻害し、この阻害能は本菌のGingipainとよばれる強力なタンパク分解酵素により発揮されることが示されている。そのため、十分なEMDの歯周再生効率を得るためには、抗Gingipain活性を有する補助成分が切望されている。そこで今回、生体への安全性が確かめられている食物由来ポリフェノールの、EMD刺激されたPDL細胞をPgから保護する活性の有無を検討した。EMD刺激を与えた PDL細胞をPgに感染させ、2種のリンゴポリフェノール、3種のホップポリフェノール、緑茶由来エピガロカテキンガラート(EGCg)を用いて、細胞増殖、細胞移動へのポリフェノールの保護能を評価した。全てのポリフェノールはPg Gingipainのタンパク分解活性に対し顕著な阻害能を示した。さらに、リンゴおよびホップ由来ポリフェノールは感染PDL細胞の細胞増殖、細胞移動を誘導し、PDL細胞への保護活性を示したが、EGCgは明らかな細胞毒性を発揮し、組織再生保護作用は得られなかった。

蓮池 聡, 日本大学歯学部, 5年生

デジタルカメラによる忠実な色再現を可能とする撮影方法

デジタル技術の普及に伴い、歯科臨床においても口腔内撮影にデジタルカメラが使用されるようになってきた。デジタルカメラ撮影は即時性、保存・再現性、遠隔地通信などアナログカメラ撮影に比較し優位性が高い。しかしながら、デジタルカメラで得られた画像にはさまざまな因子が影響し統一性に乏しいのが現状である。そこで今回、デジタルカメラを用いシェードテイキングを行う際に、忠実な色再現を可能にする撮影方法に関して検討を行った。
まず、従来の市販歯科用カメラ各機種を用い口腔内をオート設定により撮影し、適正なキャリブレーションを行ったモニターでの撮影後画像のイメージの差を比較した。この結果、各機種間で画像のイメージに大きな差がみられることが判明した。さらにストロボ光に着目し、ストロボ光の波形を変化させることで得られた画像の変化をRGBの各色成分を評価することで検討した。その結果、ストロボ光がデジタル画像に多大な影響を与えることが明らかになった。以上、本研究結果から、より忠実な色再現を可能とする歯科用デジタルカメラシステムの開発可能性を示唆する結果が得られた。

平井 幹士, 岡山大学歯学部, 5年生

ビスコクラウリン型アルカロイド製剤のシスプラチン誘発腎毒性に対する防御効果

白金化合物であるシスプラチン(CDDP)は、抗腫瘍薬として口腔領域においてもよく使用されるが、嘔吐・腎毒性などの副作用が治療上の制約となることが多い。一方、メタロチオネイン(MT)は、重金属により誘導され、重金属毒性に対し防御的な役割を果たしていると考えられている金属結合蛋白質である。われわれはある種のビスコクラウリン型アルカロイド製剤(BAP)が腎由来細胞でMTを誘導することを見出した。この知見はBAPによるMT誘導がCDDP 誘発腎毒性を軽減する可能性を示唆する。そこで今回、BAPのCDDP誘発腎毒性に対する防御効果について検討した。その結果、野生型マウスではBAP前投与による血清尿素窒素(BUN)濃度の低下が認められた。一方、MT 遺伝子欠損マウスを用いた検討では、BAP前投与群と非投与群との間でBUN濃度に有意な差は認められなかった。また、組織学的検討によりBAP非投与群の尿細管は、前投与群と比べ著しく傷害されていた。以上より、BAP前投与によりCDDP誘発腎毒性を防御できること、および、その機序の一部にMTの生合成が関与していることが示唆された。

藤江 由佳, 奥羽大学歯学部, 3年生

Actinobacillus actinomycetemcomitansの特異的凝集因子の解明

Actinobacillus actinomycetemcomitans (Aa) は限局型若年性歯周炎の原因菌として知られている。同菌はa-fの6種類の血清型に分類される。特にAa c型株は、成人性歯周炎の有力な原因菌であるPorphyromonas gingivalis (Pg) と高頻度に同時検出されることが報告されている。本研究では、Aa血清型c株が歯周炎患者の歯周ポケットから高頻度に分離される理由を明らかにするために、まず共凝集反応試験を用いてAa血清型株とPg株にみられる共凝集関係を解析し、さらにトランスポゾンを用いてAa c型株のPgに対する特異凝集因子を同定した。共凝集反応試験の結果、Aa c型株のみがPg株と強い凝集反応を示した。また、トランスポゾンを用いて得た凝集能欠失株を解析したところ、Aa c型株とPg株の特異的共凝集にはc型菌体表層多糖抗原が関与していることが明らかになった。Aa血清型c株は、菌体表層多糖抗原を介してPgと特異的に凝集し、歯周ポケットに定着することが示唆された。

藤田 光訓, 徳島大学歯学部, 4年生

オッセオインテグレーションにおけるFGF-2とメラトニンの促進効果

インプラント治療や骨再建における問題点の一つとして、新生骨が既存骨と同等の形態や機能を獲得するまでに極めて長い時間を要する点が挙げられる。もしこの期間を短縮することができれば病悩期間を短縮し、ひいては患者のQOL向上に貢献することができる。
そこでわれわれはFGF-2とメラトニンを同時に作用させることで骨芽細胞の増殖および分化を同時に促進させ、短期間に十分量の骨形成を行わせることができる可能性に着目した。そしてこの可能性を検証するため、ラット脛骨に埋入したチタンインプラントのオッセオインテグレーションにおけるFGF-2の局所投与とメラトニンの全身投与の効果を検証した。
その結果、FGF-2とメラトニンは同程度にチタンインプラント周囲の骨形成を促進し、さらに両方を併用した群では単独で投与した群と比較して、インプラント周囲により多くの新生骨が形成された。
以上の結果より、FGF-2とメラトニンはオッセオインテグレーションを促進させること、さらに両者を併用することでオッセオインテグレーションがさらに促進されることが強く示唆された。

横田 理絵, 広島大学歯学部, 5年生

スカフォールド生体材料の創製

ヒトの硬組織は炭酸を含んだアパタイトとして存在する。骨欠損がある場合、骨欠損部への補充材として、自家移植やハイドロキシアパタイトを用いて治療が行われているが、炭酸を含んだアパタイトはほとんど使用されていないのが現状である。そこで、より生体骨に近い組成や結晶性を有する炭酸アパタイトの創製を目的として、5種類の炭酸アパタイトとハイドロキシアパタイトを合成し、X線回折とFT-IRを用いてアパタイトの炭酸への置換と結晶格子の大きさを比較検討した。走査型電子顕微鏡で形態観察も行った。次に、生体骨が炭酸アパタイトとコラーゲンから成ることを考慮し、炭酸含有量の異なるアパタイトとコラーゲンを混ぜてコラーゲンスポンジを作り、骨芽細胞を播いて足場としての骨形成を試みた。その結果、炭酸アパタイトは炭酸の濃度が高くなるにつれて、結晶格子の大きさが小さくなり、針状結晶の形態も崩れてきた。X線回折により炭酸イオンが一部結晶内に置換していることも明らかになった。また、炭酸アパタイト -コラーゲンスポンジ上での細胞培養の結果では、スポンジへの細胞のなじみは良好で、内部まで侵入し、三次元培養が可能であることが示唆された。

カテゴリー: 未分類 タグ:

第10回大会

2004 年 8 月 25 日 コメントはありません

第10回大会 2004年(平成16年)8月25日 参加校 19校
タイトルおよび発表内容要旨 (入賞者を除き発表者氏名50音順)
※氏名・所属・学年は発表当時

優勝:佐藤 智子, 東京医科歯科大学歯学部, 6年生

音声音響分析による開咬を有する小児の構音評価

小児期において、開咬は最も一般的な不正咬合の一つである。開咬を有する小児の発音は、例えば無声歯茎摩擦音[s]が無声歯間摩擦音[θ]に聴こえるような違和感を覚えることが多い。歯科臨床においては、これまで小児の構音障害を音声学的に定量的に検査する方法はほとんど用いられていない。音声音響分析の一つであるフォルマント周波数分析は、母音における舌の位置が分かるとされており、第1フォルマントは舌の高低によって変化し、低舌母音では高く、第2 フォルマントは舌の前後によって変化し、前舌母音では高い。無声歯茎摩擦音[s]についてフォルマント周波数分析による比較を行った結果、第1フォルマント、第2フォルマントが有意に高いことより、開咬を有する小児は正常咬合を有する小児よりも構音時の舌尖が低く前に出ていることが推察された。このような開咬児の音声の定量分析は、将来的に不正咬合を有する小児の治療において発音機能をも含めた舌機能訓練を効果的に行うことができると考えられる。したがって容易かつ客観的な構音障害の診断方法として音声音響分析の歯科における応用と発展が望まれる。

準優勝:佐々木 健, 日本歯科大学新潟歯学部, 4年生

白色発光ダイオードを利用した歯科装置の開発

発光ダイオードは、電球のように球切れがない、電池の消費が少ない、発熱がない、安価であるなどの特徴を有している。しかし、発色が赤・緑の2色に限定されていたことにより歯科治療への応用は困難であった。本研究は白色発光ダイオード(W-LED)を用いた治療装置の実用性について検討した。
W-LEDを用いたミラーでは、室内照明のみで測定した場合、通常のミラーと比較し大変よく見える(30%)比較的よく見える(62%)であった。バイトブロックも同様に室内照明のみで行った場合大変よく見える(32%)比較的よく見える(44%)であり、75%以上が使いやすかったとの返答であった。隣接面カリエスの診断に用いたW-LEDを用いた診断では検出率は100%であった。しかし、カリエスメーターの検出率は33%であった。W-LEDを用いた自作プローベとWHO規格プラスチックプローブの比較では平均測定時間に有意差は認められなかったが、自作プローベの方が短い傾向が認められた。以上よりW-LEDを応用した歯科診療装置は治療時間の短縮やより正確な診断に有用であることが示唆された。

第3位:宮原 宇将, 日本大学歯学部

本人の希望により掲載せず

伊従 光洋, 北海道大学歯学部, 6年生

Toll-like receptor 2の微生物由来リポペプチド認識におけるロイシンリッチリピートの関与について

Toll-like receptor 2 (TLR2)は、微生物由来リポタンパク質、リポペプチド及びペプチドグリカンの認識において重要な役割を果たすことが明らかにされているが、その認識機構の詳細については不明な点が多い。我々はTLR2の細胞外ドメインに8個あるロイシンリッチリピート(LRR)の内、第3LRRに存在するLeu残基がリガンドの認識に関与していることを明らかにした。本研究ではその他のLRRに存在するLeu残基のリガンド認識への関与について検討した。FSL-1 [S-(2, 3-bispalmitoyloxypropyl) CGDPKHSPKSF]は以前と同様の方法で化学的に合成した。第1、2、4、5、6、7、8LRRに存在する50、83、367、394、415、 462、492番目のLeu残基をGluにした点変異体遺伝子を作成し、NF-κB依存性ルシフェラーゼレポーター遺伝子と共にHEK293細胞に導入し、FSL-1で刺激した後ルシフェラーゼ活性を測定した。その結果、これらの点変異体は全て、第3LRRの場合と同様にFSL-1を殆ど認識しないことがわかった。従って、TLR2の細胞外ドメインに存在する全てのLRRはリガンド認識に関与していることが示唆された。

梅村 恵理, 鹿児島大学歯学部, 5年生

舌癌感受性の判定への手掛かり

口腔癌で最も発生頻度が高い舌癌発生に関連する遺伝子を見いだす事は、発癌機構の解明のみならず、発癌感受性の判定にも有用で、さらに発癌予防にも役立つと考えられる。ラットは疾病モデル動物として多用され、最近ゲノム解析が終り、多くの遺伝子座が決定された。また、主要組織適合遺伝子複合体 (MHC)は免疫機能のみならず発癌にも関与している事が示唆されている。
本研究では舌癌好発系DAラットと嫌発系WFラットを交配し得たF2ラット130匹について、4NQO化学発癌実験を行ない、舌癌発生数や大きさを計測した。さらに、MHCが存在する第20番染色体上の18領域についてPCR法で遺伝子多型を検索し、発生数と大きさの量的形質遺伝子座をQTL解析で検索した。結果、MHC遺伝子群(RT-1 s)が存在する第20番染色体短腕のテロメア近傍に有意な連鎖を認めた。これらの免疫機能に関与する遺伝子が舌癌発生にも関連しているものと考えられた。
今後ヒトにおいても同様の舌癌関連遺伝子を特定し、将来的に舌癌感受性の判定が可能になれば、発癌リスクの高い者に対する発癌予防についての口腔保健指導に役立つものと考えられる。

永川 賢司, 徳島大学歯学部, 4年生

青紫色半導体レーザーと二酸化チタンを用いた表面処理システムの開発-レジン表面での殺菌及び細菌付着抑制効果-

増加する高齢者の感染症予防のためには、歯や義歯などを清潔に保つことが重要である。今回、二酸化チタン(以下、チタン)と青紫色半導体レーザー(波長420nm)を用いた表面処理システムを考案し、レジン表面での殺菌効果、細菌付着抑制効果を検討した。
チタン塗布の有無、レーザー照射の有無の組み合わせによる4種のレジンディスクを用いた。細菌は高齢者の口腔から比較的よく分離される緑膿菌を用いた。レジンディスク上の菌液に対する殺菌効果は、レーザーとチタンの組み合わせで最も高かったが、レーザー単独でも効果があった。レジンに予め付着した細菌に対する殺菌効果は、レーザー単独でも認められたが、レーザーとチタンの組み合わせがより高かった。細菌付着抑制効果は、レーザー照射単独のみで認められたが、これはレーザー照射によるレジン表面の疎水性への変化のためと思われた。
以上の結果から、青紫色半導体レーザーと二酸化チタンを併用した場合の殺菌効果が確認され、持続的な殺菌、抗菌効果を期待する新しい歯面、材料の処理方法開発の可能性が示唆された。

小佐野 貴識, 鶴見大学歯学部, 5年生

介護用吸引式指歯ブラシの開発

要介護高齢者の口腔ケアを容易に介護者が指に装着して使用する安価で操作性の良い歯ブラシを開発した。市販の歯ブラシのヘッド部分を切断し、中央に穴をあけ、常温重合レジンで作製した指サックに連結させた。吸引器に接続することも想定し、歯ブラシのヘッド部分から指サックの末端まで指の腹側に沿って 14Frチューブをレジンで固定した。本指歯ブラシの清掃効果をマネキンの上下顎歯に食紅で着色したジェルを塗布し、5分間の清掃後、ジェルの残留状態を視覚的に評価した。なお、ガーゼを巻いた指による清掃法と市販歯ブラシと吸引器による清掃法と比較した。ガーゼでの清掃は小窩裂溝と歯頸部にジェルの取り残しがあった。市販歯ブラシと吸引器による清掃法は全ての部位のジェルが完全に除去できたが、歯ブラシの保持が不安定であり、両手を使用するための不便さがあった。今回開発した指歯ブラシは全ての部位のジェルが完全に除去できるだけでなく、片手のみの清掃であるので非常に操作性が良かった。

大下 尚克, 愛知学院大学歯学部, 5年生

モンゴル国における活動の環境衛生学的および口腔衛生学的評価

WHOや日本の水道法によると、歯、口腔の健康と地域の水の衛生には深い関係があるとされている。そこで2000年から毎年夏にモンゴル国においてある国際医療協力活動が展開されているので、モンゴル国における環境衛生と口腔衛生状態について明らかにするために水質調査および国際医療協力活動の評価を行った。水質調査はモンゴルの異なった場所における飲料水とウランバートル市域の水源の水を確保し調査を行った。国際医療協力活動では口腔内診査、CPI値の測定、ART法による処置、ブラッシング指導を行った。水質調査の結果は全体的にフッ化物濃度が高かったのものの、ある場所におけるフッ化物濃度が突出していた。さらにその周辺で行われた活動で歯フッ素症の患児が見られたため早急に何らかの対策を講じる必要がある。医療協力活動の追跡調査によってわかったART法による充填物の一年後の保持率は最高で33%と非常に低かったので、ART法に関する技術向上も含めた検討が今後必要である。一方、追跡調査によってCPI値が改善されていることがわかり、この国際医療協力活動から一定の効果が得られていると考えられる。

大杉 真澄, 松本歯科大学, 5年生

in vitroバイオフィルムモデルに抗生物質はどのように影響するか?

本研究では、ハイドロキシアパタイトへの初期付着能の強いStreptococcus gordoniiと歯周病原因菌であるPorphyromonas gingivalisを共培養しin vitroバイオフィルムモデルを作成した。そのモデル系に、テトラサイクリン系抗生物質のミノサイクリンと、マクロライド系抗生物質のエリスロマイシン、アジスロマイシン、ジョサマイシンを用い、バイオフィルムに対する薬剤効果を検討した。4種類すべての抗生物質がバイオフィルム形成抑制能を有していることが示された。また、これまで抗生物質に対して抵抗性を有するといわれてきたバイオフィルムに対して、アジスロマイシンとエリスロマイシンがバイオフィルム破壊能を示していた。この結果は走査型電子顕微鏡によっても観察することができた。本実験で用いた4種類の抗生物質は、浮遊細菌に対して抗菌活性をもつことと、エリスロマイシンとアジスロマイシンが、バイオフィルムに対して強い浸透性を持つ可能性を示唆した。

加藤 智崇, 日本歯科大学歯学部, 5年生

知的障害児に対する写真絵カードを用いたブラッシング指導の効果

「健康日本21」の目的にはQOLの向上があり、障害者でも重要な課題である。特に良好な口腔衛生状態の維持はQOLと密接であることから、本研究では障害者のQOLの向上を目指し、知的障害児に対する視覚素材を用いた新しいブラッシング指導法を検討した。今回考案した写真絵カード法は従来のイラストや歯式ではなく、実際の歯列の写真を用いて障害児がより視覚的に自分の口腔内状況を認識できるように工夫したものである。対象者は精神遅滞の小児で、絵カードを用いる群と鏡のみを用いる対照群の2群に分けた。まず2群とも口腔内染め出し後PCRを評価し、絵カード群では、汚れている部位を赤のペンで絵カードの歯列上に被験者と共に印記し、磨くべき部位を指導した。対照群では、汚れを鏡で見せながら指導した。そして4週後再度PCRを評価した。その結果、絵カード群ではブラッシングが必要な部位の認識が対照群より速やかで、また4週後来院時までの持続効果があった。これらの結果から、写真絵カードなどの視覚素材を用いたブラッシング指導は知的障害児でも有用で、また健常児と同様の知的発育段階を踏まえることで効果的に指導できることが示唆された。

岸野 香織, 明海大学歯学部, 5年生

培養口腔正常細胞の加齢に伴うフッ素感受性の変化

フッ素は、齲蝕予防や再石灰化促進などの好ましい作用を示す反面、細胞傷害作用などの好ましくない作用も有するため歯科臨床での使用に関して賛否両論がある。今回、ヒト口腔組織由来正常細胞の試験管内老化の過程で、フッ化ナトリウム(NaF)に対する感受性がどのように変化するかを検討した。歯肉線維芽細胞、歯髄細胞、歯根膜線維芽細胞は、大学倫理委員会規定に従い、矯正抜歯の第一小臼歯から採集した。毎週1:4の継代培養を行い、中間日に培地交換を行なった。細胞傷害活性およびミトコンドリアの活性は、MTT法により、アポトーシスの誘導は、DNAの断片化およびカスパーゼの活性化により検討した。継代培養が進むにつれ(老化の進行に伴い)細胞飽和密度が直線的に減少し、約20回の分裂後細胞増殖を停止した。NaFは、濃度依存的に細胞傷害活性を示したが、低濃度での増殖促進作用(hormesis)およびアポトーシスは誘導しなかった。老化に伴い、いずれの細胞でもNaFに対する感受性は低下し、ミトコンドリアの機能は、終末期において増加した。老化に伴う感受性変化の原因解明は、フッ素の歯科での適応を考える上で重要であると考える。

木村 美穂, 神奈川歯科大学, 6年生

ミニ診療室模型による小児の歯科診療に対する心理評価の試み

歯科治療は少なからず不安感あるいは恐怖心を受診者に与える。特に小児にとっては、大きなストレスになっていると思われる。そこで、小児の歯科診療に対する不安あるいは恐怖を客観的に評価するためにミニ診療室模型を作製し、小児の心理状態を効果的に評価できるかどうかを検討した。
調査は、歯科治療に来院した3歳から5歳の小児48名を対象にして、ミニ診療室模型と歯科診療スタッフおよび家族の人形を用いて行った。評価は、小児が並べた人形の配置と保護者および小児へのアンケート調査によって行った。
その結果、人形の配置タイプはさまざまであったが、その中で治療椅子に自分を乗せるか、乗せないかは不安や恐怖を表現しているように考えられた。しかし、不安の大きさと人形の位置との距離的関係は明らかに出来なかった。
今後さらに検討を進めることによって、ミニ診療室模型を用いた小児の歯科診療に対する心理評価は、小児歯科臨床に役立つと考えられた。

齋藤 ゆかり, 朝日大学歯学部, 5年生

チェアーサイドTiny-SEMシステムで義歯プラークを観察することが介護士による老人ホームの入居者の口腔内清掃に対する動機付けに与える影響の評価

高齢者の口腔内清掃は、QOLの向上のみならず誤嚥性肺炎の発症に大きく影響を与えるものである。今回、介護士に対して、老人ホームの入居者の口腔内清掃の介助、援助に対する動機付けのために、チェアーサイドTiny-SEM(走査型電子顕微鏡)システムによる、義歯プラークの観察がどのように影響を与えるかを評価した。対象者は老人ホーム介護士42名で、口腔内清掃に対する意識調査(Pre-Q)を行った後、入居者の義歯プラークをTiny-SEMで観察し、口腔内清掃に対する意識調査(Post-Q)を再度行った。結果は、義歯プラークがTiny-SEMで明瞭に観察され、Post-Q17「実際に義歯プラークを観察して、口腔内清掃に対する気持ちが変化しましたか?」の質問への回答を目的変数とし、他の質問への回答を説明変数とし重回帰分析を行った中で、Pre-Q11「義歯プラークが肺炎の原因であることを知っていますか?」への回答に負の相関関係が認められた。このことからTiny-SEMによるプラークの観察が介護士に対して、入居者の口腔内清掃の介助、援助に対する動機付けに大きな役割を果たしたことが示唆された。

坂元 正樹, 北海道医療大学歯学部, 5年生

粉砕したエナメル質を配合した歯冠修復用硬質レジンの諸性質

近年、歯冠修復用硬質レジンの強度は、フィラーの高密度充填化によって飛躍的に向上した。しかし、多量に配合された硬いフィラーによって、対合関係にある天然歯のエナメル質が磨耗する可能性がある。そこで本研究では、対合歯を磨耗させない歯冠修復用硬質レジンの開発を目的として、エナメル質の粉末をレジンに配合し、高い強度を有するコンポジットレジンの作製を試みた。牛歯を粉砕した粉末からエナメル質粉末を分離して、UDMA系のレジンに80 mass %あるいは85 mass %配合した。光増感剤としてカンファーキノンを用いた。試験片を光重合あるいは光重合後に100℃で30分間加熱して作製し、硬さ(Hv)と圧縮強さを測定した。フィラー含有量の増加にともなって、Hvと圧縮強さの値は高くなった。フィラーを85 mass %含有した試料のHV は、加熱処理することによって95.2に達し、市販されているほとんどの硬質レジンよりも高い値を示した。これらの結果から、多量のエナメル質粉末をレジンに配合することによって、高い強度を有し、かつ対合歯を磨耗させない新しい歯冠修復用硬質レジンの開発が可能であることが明らかとなった。

柄 なつみ, 広島大学歯学部, 6年生

歯根膜の再生・保存法の確立と新たな歯の移植法の開発

本研究は、歯根膜の再生と長期保存のための凍結保存法の確立を目的とした。
まず、矯正歯科治療のために便宜抜去した小臼歯の歯冠側根面の歯根膜およびセメント質を除去した。無処置の抜去歯、全面にアテロコラーゲンを塗布したもの、さらにコラーゲンを塗布し、人工骨に埋め込んだものを14日間培養した。次に、8週齢Wistar系雄性ラット(180±20g)の右側上顎切歯を抜去し、プログラムフリーザを用いて3日間凍結保存を行った後、抜歯窩に再植したものを実験群、抜去直後に再植したものを対照群とし、再植7日後の歯周組織の組織学的変化について観察した。その結果、歯根表面にアテロコラーゲンを塗布し、人工骨に埋め込むことにより、歯根膜組織の再生がより広範囲に及ぶことが示された。一方、ラット上顎切歯再植7日後の実験群、対照群の歯周組織の再生は、比較的良好であった。これらの結果から、本方法により培養した歯根膜をプログラムフリーザにより凍結した後、長期的に保存することにより、任意の時期における歯の移植が可能となり、かつ歯根膜が完全に残存していることから、歯の自家移植の良好な成果が期待される。

永田 敦子, 日本大学松戸歯学部, 6年生

顎関節症児の顎運動と顎顔面形態の検討

顎関節症状を伴わない小児においてもMRI所見から関節円板前方転位が認められたという報告から本学において開発された簡便な顎運動解析装置を用いてわずかなクリックを呈する小児と不正咬合を主訴で来院し、顎関節症症状のない小児の顎運動解析を行った。加えて顎関節症児と非顎関節症児の顎顔面形態を検討するため頭部エックス線規格写真を用いて顎顔面の基準点間距離を比率で表したところN-Pogに対するA-B間距離は顎関節症群では非顎関節症群より有意に小さかった。
以上のことから、下顎上の3点の軌跡を描記することによってわずかな顎関節異常をも検出できることが解った。さらに、N-Pogに対するA-B間距離すなわちdeep biteが顎関節症の危険因子であることが明らかとなった。
以上のことから小児歯科臨床において顎運動解析を行い、早期に顎関節症の原因を運動軌跡から考察し、deep bite は顎関節症の発症を予防するために早期に治療することが必要であることが示唆された。

松田 弥生, 岡山大学歯学部, 4年生

矯正治療経験者と未経験者の矯正装置に対する認識の違いに関するアンケート調査

不正咬合を有する人の中には矯正装置に対する違和感のために矯正治療を受けない人がいると報告されているが、一般の人がどのような矯正装置を知っているのか、矯正装置に対してどのようなイメージを持っているのかについての調査はない。本研究では矯正装置を装着したエポキシ模型と女性の顔写真を作製し、これらの資料を使用して大学生を対象に矯正治療経験の有無、装置に対するイメージなどについてのアンケート調査を実施した。アンケート結果を矯正治療経験者(20%)と未経験者(80%)の2群に分け、比較検討した。矯正治療未経験者は経験者よりも矯正装置について知っている人が少なく、未経験者は経験者より、装置を装着することに抵抗感を持っていた。未経験者も経験者も他者が着けている装置から受ける印象に差はなく、気にしていないことが示唆された。以上より、未経験者は経験者よりも目立つ装置をつけることに抵抗感を持っているが、経験者も未経験者も自分自身が着けている矯正装置は気になるが、他人が着けている矯正装置にはあまり気にしないことが示唆された。

吉田 能得, 大阪大学歯学部, 4年生

バーチャルリアリティーデバイスを用いた教育的抜歯シミュレーション

最近、臨床実習において我々学生が直接患者さんの治療を行う機会は非常に少なくなっている。歯科で重要な手作業による医療技術が未習熟のままで、卒後臨床現場に立つ我々の不安は大きい。そこで、本研究ではコンピュータによるバーチャルリアリティー技術の中でも、特に力を感じることができるハプティックデバイスを応用し、歯科教育のトレーニング用シミュレーションシステムの開発をめざした。
今回は、埋伏智歯の抜歯のシミュレーションを対象とし、まず実際の患者さんのCT像を用いて3次元像を作成し、それから歯肉、智歯、顎骨、下顎管を個々のオブジェクトとして分離した。そして、ハプティックデバイスのツールを用いて、歯肉の切開、智歯周辺顎骨の削除、智歯の分割、抜歯のプロセスを手術時の感触に似た力覚を手に感じながらを進めることができた。今回のバーチャルリアリティーデバイスを用いた抜歯シミュレーションにおいて、医療事故の回避において重要な下顎管を抽出し、その走行を把握して下顎管を損傷しないように操作する方法をトレーニングできるなど、教育的な大きな意味があると考えている。

カテゴリー: 未分類 タグ:

第9回大会

2003 年 8 月 27 日 コメントはありません

第9回大会 2003年(平成15年)8月27日 参加校 20校
タイトルおよび発表内容要旨 (入賞者を除き発表者氏名50音順)
※氏名・所属・学年は発表当時

優勝:角田 衣理加, 鶴見大学歯学部, 6年生

精油の歯周病原性細菌に対する抗菌効果および口臭抑制効果の検討

アロマセラピーで主に使われる精油であるラベンダー、レモン、ペパーミント、ティートゥリー、クローブがもたらすリラックス効果には免疫系の活性化が期待されている。また、近年、精油の抗菌作用も注目され始めている。そこで代表的な歯周病原菌で口臭の原因となるPorphyromonas gingivalisとFusobacterium nucletum に対する精油の抗菌効果を検討するとともに、ブレンド精油がうがい薬として歯周病患者の口臭に有効であるかを調べた。抗菌効果については、被検菌液に各精油を加えたものを嫌気培養後、コロニー形成法および液体希釈法によって判定した。その結果、5種類全ての精油は 0.28~2.71%(MIC)でFn、Pgの発育を阻止し、1.92~5%(MBC)の濃度で殺菌することがわかった。口臭測定は歯周病患者からインフォームド・コンセントを得た後、水および精油混合水(ぺパーミント、ティートゥリー、レモンの各0.1%水)によるうがいの前後に3タイプの硫化水素 H2S、CH3SH、(CH3)2Sを測定し口臭を判定した結果、精油混合水によるうがい後は口臭の低下が見られた。精油は各々異なる作用を持つので複数のブレンドにより幅広い症状への対応ができ、患者の好ましい香りで高い効果が期待できる。今後、ブレンド精油が歯周病患者の口臭抑制だけでなく、治療効果が期待できるか検討する予定である。

準優勝:齊藤 邦子, 日本大学歯学部, 5年生

光重合型レジン修復のシェードテイキングを的確に行なうテクニック

アメ光重合型レジンの色調適合性は、とくに修復物の審美性を左右するところから臨床的に重要な位置を占める。本研究の目的は、(1)光重合型レジンの硬化前後およびその後の水中保管における色調および透明性の変化を測定するとともに、(2)自家製シェードガイドを用いることの重要性およびその有効性について検討を加えるものである。 14種類の市販されている光重合型レジンを使用した。これらのレジンペーストについて、照射に先立ち、背景を白色あるいは黒色とした条件で測色を行った。測定後、重合硬化させた試片について再び測色するとともに、経時的に測定を行った。本実験の結果から、全ての製品で硬化前後に色調および透明性が変化し、経時的にもその傾向が認められた。このような色調の変化は、臨床において半透明性材料である光重合型レジンの色調併せを困難にする要因の一つとなるものと考えられた。したがって、このテーブルクリニックで紹介する自家製シェードガイドの製作とその臨床応用は、光重合型レジンの色併せを確実にするものであり、その臨床有用性は高いものと考えられる。

第3位:中村 公彦, 新潟大学歯学部, 5年生

飲み込みやすいってどういうこと? -嚥下しやすい食品開発の第一歩-

食物の飲み込みやすさに影響すると考えられる因子は多いが、必ずしもどのような因子が中心的に飲み込みやすさを支配しているかは明確になっていない。これは食物の飲み込みやすさは客観的に評価することが難しいためである。社会の高齢化による嚥下障害が大きな問題になっていることから、本研究では、嚥下障害がある場合にも食べやすい食品開発への第一歩として、飲み込みやすさを客観的に評価することの可能性を検索した。物性の異なる物質を健常な被験者に嚥下させ、官能評価による飲み込みやすさ(主観的)を調査すると同時に、これを喉頭運動測定装置、筋電図およびビデオ嚥下造影のデータ(客観的)と比較して両者の相関を調べた。その結果、主観的な飲み込みやすさを、舌奥から喉頭蓋への食物の送り込み時間で表すことができる可能性が示唆された。今回の実験により、客観的な嚥下動態と主観的な飲み込みやすさとの接点が確認された意義は非常に大きいと思われる。今後は、嚥下障害のある被験者にもご協力をいただき、同様のアプローチをすることによって、飲み込みやすさの実態をさらに解明し、すべての人に食べる楽しみを提供できる新たな食品開発の第1歩としたい。

足立 憲正, 朝日大学歯学部, 4年生

A-病院に来院した患者、付き添いに対する口臭アンケート調査の統計的評価

社会的に、口臭に対する認識は年々高まってきている。また、A-病院にも口臭を主訴として来院する患者も増加してきている。今回、統計的評価を行うことを目的として、A-病院において口臭を主訴として治療を受けていない患者と付添を対象に、口臭に関するアンケート調査と小型ガスセンサーによる口臭測定を行った。アンケート調査と口臭測定は、平成15年5月10日から7月5日までの、毎週土曜日、午前8時30から午後0時30分まで、A-病院総合受付にて行った。アンケート調査は、年齢、性別、口臭の自覚の有無、喫煙歴などを含む11項目で行った。口臭測定には半導体厚膜(AET)ガスセンサーを用い、使用マニュアルに従い、1人の被検者に対し2回測定を行った。今回の調査および統計的評価で以下のことが判明した。1. 30歳台から50歳台に口臭値の高い人を認めた。2. 口臭測定値と口臭の自覚には相関関係を認めた。3. 喫煙と口臭測定値との間には相関関係を認めなかった。

阿藤 久泰, 明海大学歯学部, 2年生

レーザー照射によるヒト歯肉細胞の増殖と細胞死の誘導

今日、歯科治療におけるEr:YAGレーザーの実用性は高く、特に硬組織や歯肉切除の研究に使用されてきた。しかし、臨床研究に比べてEr:YAGレーザーを用いた基礎的研究は少ない。ヒト歯肉切除の際に、Er:YAGレーザーを用いると傷の治りが早い事に着目し、将来的に歯周炎など、口腔内の炎症への適用の可能性を探る目的で、歯肉細胞に対するレーザー照射の影響を、レーザー出力と照射時間を変えて比較検討した。その結果、低出力においては若干の増殖促進効果が見られた。高出力照射の場合は、短時間照射の同様に増殖促進効果がみられたが、照射時間の延長とともに細胞死が誘導された。20 population doubling level (PDL)の細胞まで、レーゼー感受性に差は見られなかった。各実験毎のバラツキは、レーザー照射範囲が狭いために照射を強烈に受けた細胞傷害群と、低レベル照射による増殖促進群の総和の結果であると思われた。PDLの進んだ老化細胞における実験を行うことにより、老化に伴うレーザー感受性の変化に関する研究が推進されるものと考える。

石田 喜和子, 日本大学松戸歯学部, 6年生

電解水のレジン床義歯に対する消臭効果

C義歯が吸湿性に富み、唾液などが付着し、さらにその表面に微生物が定着しやすいことから、義歯による口臭は広く認識されることがらのひとつである。一般的に、口臭の原因物質として揮発性含硫化合物があげられ、それは口腔内に存在する微生物によってタンパク質が分解されてできるものであることが知られている。そこで、義歯に定着する微生物を消失させることにより、口臭を減少させることを試みることにした。揮発性含硫化合物の定量には、Halimeterを用いた。義歯床(10×10×2mm3)をCandida albicans懸濁液中に25℃、48時間浸漬し、次いで強電解質水中に2分間浸漬した場合、明らかな揮発性含硫化合物の減少を認めた。特に塩基性強電解水で1分、次いで酸性強電解水で1分処理した義歯床では最も低い揮発性含硫化合物を確認できた。市販の義歯洗浄液では、作用時間が2分と短かった故か、効果は低かった。義歯床の表面に強電解質水をスプレーした場合、浸漬によるものより効果は劣ったが、揮発性含硫化合物の減少を認めた。スプレー法は、浸漬法に比較して容易であり、場所を選ばないことから、今後検討してみる必要がある。

犬飼 美香, 東京医科歯科大学歯学部, 6年生

無歯顎患者における開口度測定器の開発

歯学の分野では、医学の分野と比較して、データを数字で表し、その値が正常か異常かを見極める指標が少ない。開口度は、口腔機能を評価できる数値化されたデータの一つであり、顎関節症、顔面筋萎縮、強皮症などの、開口障害の指標として大変重要である。開口度は上下顎切歯切縁間の最大可動距離と定義され、下顎の運動域を簡便に評価する指標として用いられてきた。しかし、この指標は一般に前歯部欠?や無歯顎の場合は使えないケースが多い。そこで、本研究では、歯列の欠?形態に関わらず、無歯顎患者でも測定可能であり、簡単に測定できる開口度測定法の開発を目的とした。従来の開口度と相関があると考えられるいくつかの口腔外の測定部位に対して、新たに考案したL字型定規やノギスを使用して測定し、従来の測定値との相関係数を求め、その有用性を検討した。その結果、各々の測定部位で、相関係数0.7以上となり、特に考案したL字型定規は相関係数0.773と最も高く、新たな開口度の指標として十分利用可能であることが示唆された。

小沼 邦葉, 日本歯科大学新潟歯学部, 4年生

痛くない麻酔注射のために ―麻酔薬の温度管理は麻酔時の痛みを軽減するか?―*日本、フィリピン、タイ、U.K.における検討*

局所麻酔時の痛みを少しでも軽減するために独自に注射器を改良し、注射薬の温度管理が痛みにどのように影響するのかを検討した。健常成人ボランティア40 吊を対象に強冷蔵(4~8℃)、冷蔵(10~14℃)、室温保存(18~22℃)、加温器保存(34~38℃)、自己開発したヒーターによる温度管理(38℃)の5群に温度設定したエピネフリン添加2%リドカインの浸潤麻酔を行った。疼痛を表すVAS(Visual analog scale)は、強冷蔵群14.1(±7.4)mm、冷蔵群16.1(±14.4)mm、室温群6.1(±4.4)mm、加温器群9.3(±6.8) mm、ヒーター群1.5(±3.1)mmであり、強冷蔵群、冷蔵群、室温群、加温器群の4群間に有意差は認められなかった。しかしヒーター群においては、他の群と比較し有意に低値であった。よって注射器本体に加温ヒーターを装着し注射薬を投与直前まで温度管理する本方法は、薬液の変性を来さず、局所麻酔時の疼痛を軽減する有効な手段であると考えられた。

小俣 葉, 北海道大学歯学部, 6年生

コーヒー、ウーロン茶、ワインによる修復用レジン表面への色素沈着

本実験では、飲料の違いによる光重合型コンポジットレジンの着色度を比較することを目的とした。レジンを充填したアクリル板を、コーヒー、ウーロン茶、および赤ワイン中に7時間、人工唾液あるいは蒸留水中に17時間のサイクルで浸漬し、1、2、4週間後にデジタルカメラで撮影、画像解析ソフトにてグレースケールに変換した後、イメージングアナライザーを用いて着色度を数値化した。また人工唾液を使用した実験群において、ブラッシングとグルコン酸クロルヘキシジンによる着色除去効果についても検討した。その結果レジンの着色度は蒸留水よりも人工唾液の方が有意に強く現れた(P<0.05)。これは人工唾液に含まれるムチンによりペリクルが形成されたためであると考えられる。また飲料別に見ると、赤ワイン、ウーロン茶、コーヒーの順に着色度が高かった。赤ワインの顕著な着色の原因として、アルコールのレジン浸食作用が考えられる。着色除去効果はブラッシングでは高かったものの、グルコン酸クロルヘキシジンでは何もしない群よりも有意に強く着色した(P<0.05)。これはグルコン酸クロルヘキシジンに着色作用があるためではないかと考えられる。

川崎 美恵, 九州大学歯学部, 5年生

療養型病床における食後性低血圧について

高齢者歯科医療・介護現場において、食というテーマは大きな自立基準となる。各人の全身状態によっては食事環境も異なるため、単に、食べる、ではなく、体温や血圧などの全身状態も考慮しなければならない。急激に血圧が低下すると、死に至る事もあるので注意が必要となる。そこで、食事介護のあり方、特に食後性低血圧の予防に関して、食事の内容・方法との関係において、データの収集および解析を行った。解析はt解析にて行った。食後の血圧低下は食事方法(自立、半介護、全介護)には依存せず、食事の形態(常食、きざみ食、ミキサー食)に依存することが分かった。特に胃ろう群では、顕著な血圧低下が見られた。これは非常に大きな問題である。医療現場では、患者から「ごはんを食べるのがきつい《と聞かれるが、これは食後の血圧低下が一要因であると考えられる。療養型病床では、患者の病症によっては食後性低血圧を考慮して食事方法、食事形態および胃ろう用の食材の滴下時間などを綿密に設定、調整することの重要性が示唆された。

下里 武巳, 岡山大学歯学部, 4年生

アメリカンフットボール選手が望むマウスガードの厚さに関する研究 -声の出しにくさの改善と精神的な安心感とのバランス-

アメリカンフットボールではマウスガード(MG)の使用が公式規則上義務化されており比較的普及しているが、使用時の「声の出しにくさを現状の問題点として訴える選手が最も多い。本研究では、汎用の厚さのMG(3.8mm)に加えて、約1/2の厚さのMG(2.0mm)をそれぞれの選手について作製し、 7日間練習時に使用してもらい、厚さの違いが選手に与える機能的・心理的影響について検討した。その結果、「声の出しにくさ《は、厚さを3.8mmから 2.0mmにすることで改善した。しかし、2.0mmのMGでは使用するにつれ薄すぎると感じる選手が現れ、7日後には2.0mmよりも3.8mmのMG を好む選手が増加した。これは2.0mmのMGでは次第に頼りなさや上安感を感じるようになるためであると考えられる。よって、アメリカンフットボール選手のMGにおいては、上満点としての「声の出しにくさ《を改善するために、安易に2.0mmのMG を作製し、短期間でその効果の評価をするには注意が必要である。選手の使用の経過に伴う変化を考慮し、3.8mmのMGで選手の要望を満たすデザインの工夫等が重要である。

高橋 優, 鹿児島大学歯学部, 4年生

種々の表面処理をした12%AuPdAg合金と硬質レジンとの接着強さ

以下の8種の表面処理をした12%AuPdAg合金と硬質レジンとの接着強さを測定した。アルミナ粉末(100-250μm)によるサンドブラスト、 0.3μmアルミナによる鏡面研磨、鋳造によるリテンションビーズ(209±13μm)、600℃または400℃で1時間の酸化処理、超臨界水(SCW)処理、NaOH、KOH、およびLiOHを用いたアルカリ処理、1% Na2Sを用いた硫化物処理、電気化学的腐食。リテンションビーズを付与した12%AuPdAg合金と種々の硬質レジンとの接着強さは冷熱サイクル試験後も低下は認められなかった。酸化処理はわずかに結合強さが増加したが、SCW処理およびアルカリ処理では有意な効果は認められなかった。硫化処理は無処理のものより、さらに接着強さが低下した。鏡面研磨仕上げの12%AuPdAg合金とレジンとの接着強さは、サンドブラスト仕上げのものより有意に小さい値を示した。これらの結果から、12%AuPdAg合金と硬質レジンとの接着強さを向上させるためには、酸化物、塩化物、硫化物などの機械的強度の劣る被膜が生成しないような表面処理が必要であることが示唆された。

高山 智子, 松本歯科大学, 4年生

糖尿病による唾液分泌障害マウスへの漢方薬の影響

ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病マウスを実験モデルとして、糖尿病による唾液分泌障害に対する白虎加人参湯と五苓散の唾液分泌促進効果を検討することを目的とした。本研究から、実験的糖尿病動物モデルにおける唾液分泌量減少などの唾液腺機能障害が、漢方薬投与によって回復することを確認できた。漢方治療は、古くから、誰もがもともと持っている、病気と闘い、治す力(自然治癒力)を高め、身体を整えることを治療の基本にしているといわれている。これまで、白虎加人参湯は血糖低下作用をもつことが報告されていることから、インスリン上足で引き起こされる代謝障害による高血糖値を調節することによって、唾液分泌機能を改善させたと考えられる。一方、五苓散は生体の水の代謝機能を向上する作用によって、唾液分泌機能を向上させたと考えられた。漢方薬治療が、身体全体の代謝バランスを整えることにより、自分自身のもっている「治す力《を利用する方法であると考えられた。糖尿病に伴う唾液分泌障害による口渇に対して、漢方薬である白虎加人参湯と五苓散が、有効な治療薬となる可能性を示唆できた。

中垣 秀隆, 北海道医療大学歯学部, 5年生

接着性モノマーが脱灰象牙質の再石灰化に及ぼす影響

近年、接着システムは急速な進展を遂げたが、樹脂含浸象牙質と健全象牙質との間に脱灰象牙質が残留することが明らかになっている。この残留脱灰象牙質が加水分解され、樹脂含浸象牙質・健全象牙質間にギャップが形成され(ナノリーケージ)、象牙質接着の長期安定性を低下させることが報告されている。したがってこの残留脱灰象牙質層を如何に早く再石灰化させることができるかが象牙質接着の長期安定性に影響を与える大きなポイントであると考えられる。本研究では、接着システム中に含まれる接着性モノマー、Phenyl-PおよびMDPが脱灰象牙質の再石灰化にどのような影響を及ぼすのかをin vitro石灰化実験系において検討した。その結果、Phenyl-P、MDPともに、酸性条件下では、脱灰象牙質モデルである結合型ホスホホリンの石灰化誘導活性を抑制したが、中性条件下ではそれを増強させた。このことから、現在の接着システムを改良して、石灰化誘導活性を付加した新しい接着システムを開発することにより、接着耐久性を向上させることができるものと考えられた。

信川 真智子, 昭和大学歯学部, 5年生

解熱鎮痛薬(ジクロフェナックナトリウム)は骨吸収抑制効果も示す

本研究では解熱鎮痛薬による骨吸収抑制機序を解明するために代表薬であるジクロフェナックナトリウム(DIC)を使用し、破骨細胞の形成・分化過程に及ぼす影響を検討した。DIC添加群と非添加の対象群を比較した結果、DICは濃度依存的に破骨細胞形成数が低下し、さらに低い濃度で骨吸収も抑制した。また破骨細胞をCSF-1+RANCL添加群、CSF-1+RANCL+DIC添加群に分けて細胞質中のIκBと核蛋白のNF-κBの量をウエスタンブロット法により比較検討した結果、核内でのNF-κB転写活性を直接抑制していることがわかった。以上のことよりDICは破骨細胞に対し、濃度依存的に形成・分化を抑制し、その機序はNF-κB活性の抑制であると考えられた。したがってDICには鎮痛効果以外にも骨吸収抑制効果も示されることから、痛みの消失とともに本薬剤の?用を中止するのではなく、骨量減少が予測されるような症例(歯周病の急性期や抜歯後など)では炎症による骨吸収を防止する目的より長期に?用した方が良いのではないかと考えられた。

坂 江里子, 大阪歯科大学, 3年生

カラーチェンジ自在で接着性を有するエナメル質対応メイクアップツールの開発

本実験では、カラーチェンジ自在で接着性を有するエナメル質対応メイクアップツールの開発を試みた。既存のセルフエッチングプライマー(SPS)に酸化チタン粉末を5%加えた(VICTORIA-1)と1%を加えた(VICTORIA-2)を作成した。また、比較材料として市販商品(CE)を用い、無処理抜去歯牙にこれら材料を塗布し、試料とした。上記試料を硬化後、歯科用色彩計で比色した。また、試料に対し、歯ブラシと超音波スケーラーを作用し、離脱速度を接着性とした。本研究結果において、VICTORIA-1とVICTORIA-2は抜去歯牙を白くさせたが、CEは出来なかった。CEは抜去歯牙からの歯ブラシによるブラッシングで簡単に離脱した。しかし、VICTORIA-1とVICTORIA-2はスケーラーでのみで離脱した。簡単に離脱するということは、CE中の成分が溶出し、口腔内から体内に吸収することが懸念される。一方で、スケーラーの利用で離脱可能であることは、カラーチェンジが自在に行えるということで有意義である。色彩面および接着性の両面から本材料は、エナメル質対応のメイクアップツールとなることが示唆された。

三浦 完菜, 広島大学歯学部, 6年生

血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は口腔癌の骨浸潤にも関与している!

癌細胞は血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を産生し,血管新生を促進することにより癌の増殖に有利な環境を作りだす。近年、VEGFには血管新生促進作用に加え、破骨細胞の分化や骨吸収活性を刺激する作用があることが明らかにされつつある。一方、癌の骨浸潤は臨床的に大きな問題であるが、骨浸潤機構の詳細は明らかにされていない。そこで、本研究では口腔癌の骨浸潤におけるVEGFの役割を検討するため、歯肉癌27症例におけるVEGFの発現を免疫組織化学的に調べ、破骨細胞の出現状況と比較した。その結果、VEGF低発現群(7例)では破骨細胞はほとんどみられなかったのに対し、高発現群(20例)では多数の破骨細胞が出現していた(P<0.002)。さらに、VEGFの発現とレントゲン所見を比較したところ、低発現群では全例が骨表面に限局していたのに対し、高発現群では広範な浸潤を示す症例が多かった。以上のことから、癌細胞の産生するVEGFは、破骨細胞の分化や働きを促すことにより癌細胞の顎骨内浸潤に関与することが明らかとなった。したがって、VEGFの発現程度の評価が歯肉癌の顎骨浸潤能の予測因子となる可能性が示唆される。

南口 知穂, 徳島大学歯学部, 6年生

間接FGP法術式の開発-機能的咬合面の作製を目指して-

本研究の目的は顎運動測定器と6軸自動制御ステージを用い顎運動に調和した、機能的咬合面を作製するための新たな術式を開発することにある。顎運動の測定は磁気を利用した顎運動測定器を用いた。また顎運動の再現にはパラレルリンク方式の6軸自動制御ステージを用いた。歯列模型を6軸自動制御ステージに取り付け、これを測定した6自由度顎運動に基づいて操作することで、咬合器として使用し、顎運動に調和した機能運動経路の形成を行った。本術式は顎運動を機械的に再現することにより、間接的にFGP法を行うもので、オクルーザルリコンストラクションなど全顎的な補綴処置に適していると考えられる。しかし本研究では形成される機能運動経路の有用性を確認することを目的として、臼歯部に単冠の製作を予定した患者を被験者として選択し、本術式と口腔内FGP法により形成される機能運動経路の比較を行った。被験者により行われる顎運動の種類別に比較を行ったところ、本術式と口腔内FGP法による機能運動経路には若干の違いが認められた。またこの違いは機能運動時に生じる歯列の歪みなどによるものと推察された。

山手 聡子, 長崎大学歯学部, 5年生

歯垢による血小板凝集活性

歯垢を形成する細菌のなかには一部のStreptococcus sanguis菌株のようにヒト血小板凝集性を有するものがあることが報告されている。細菌の血小板凝集は感染性心内膜炎や血栓症などの血管系疾患を誘発する可能性が示唆されている。まず、健康成人歯垢中より分離した41菌株について血小板凝集性を調べたところ、6株に顕著な活性がみられた。そのうちの3 株はS.sanguisと同定された。日常生活や歯科治療時に血管内に偶発的に侵入する細菌は個々の純培養菌ではなく歯垢を構成する細菌集団と考えられるが、歯垢そのものの血小板凝集性については報告されていない。そこで健康成人8人より採取した歯垢について直接、血小板凝集性を調べたところ、3試料は強い凝集活性を示す一方、残りの5試料はほとんど凝集活性がなかった。とくに凝集活性が強かった歯垢についてS.sanguisを分離し、血小板凝集性を調べたところ、S.sanguis biovar 1と同定した3株のうち、1株に顕著な血小板凝集活性がみられた。今回の結果から、口腔から採取される細菌から比較的容易に血小板凝集性をもつ細菌を分離できること、歯垢そのものを用いた実験から血小板凝集性のある歯垢と凝集性のない歯垢が存在することが明らかとなった。

吉田 彩佳, 神奈川歯科大学, 4年生

唾液クロモグラニンAによるストレスレベルの評価および咬合の影響

現代社会で多く人は、種々のレベルのストレス状態にあると考えられ、歯科臨床においてもストレスによるブラキシズムに起因した歯や歯周組織の破壊、顎関節症などが急増している。それゆえ、日常歯科臨床において患者毎のストレスレベルを評価する簡便な方法を開発する必要がある。クロモグラニンA(Cg A)はニューロンの分泌顆粒に見出され、ストレスに対する反応の指標となることが示唆されている。また、Cg Aは唾液中にも分泌され、精神的なストレスによって上昇する血中のノルアドレナリンと相関して上昇することが報告されている。本研究は、ボランティア25 吊を被験者とした。唾液はコットンを口腔内に静置して、5分間唾液をしみ込ませることで採得した。ストレス負荷は上快音(非常ベル)を聞かせることによって行い、その直後に唾液を採得した。採得した唾液は、抗ヒトCg A抗体を用いてELISA法によりCg Aを定量した。唾液Cg Aの変動は、ストレス負荷によって唾液Cg Aが上昇し、その後安静時レベルに戻るタイプ(group A)、ストレス負荷直後は、大きく変動せず15分後に上昇するタイプ(group B)、さらにストレス負荷直後も、15分後もあまり変動しないタイプ(group C)に分けられた。ブラキシズムによって、group A はストレスによる唾液Cg Aの上昇が有意に抑制された。Group Bにおいてはストレス負荷15分後の唾液Cg Aの上昇が抑制された。Group Cにおいては咬合の影響は認められなかった。今回調べた被験者の約65%は、ストレスに対してCg Aが変動した。これらの個体ではブラキシズムによって、唾液Cg Aの上昇は抑制された。このことから、咀嚼やブラキシズムなどの咀嚼器官機能はストレスを軽減させる効果のあることが示唆され、歯科臨床において患者毎のストレス評価が重要であり、また唾液Cg Aの測定によって個体毎のストレス反応が評価できる可能性を示すものであった。

カテゴリー: 未分類 タグ: