第4回大会
第4回大会 1998年(平成10年)8月19日 参加校 9校
タイトルおよび発表内容要旨 (入賞者を除き発表者氏名50音順)
※氏名・所属・学年は発表当時
優勝:阿部 修, 東京歯科大学, 5年生
要介護高齢者口腔内には肺炎起因菌が高頻度に検出される
高齢者における直接の死因として最も高いのが不顕性誤嚥による細菌性肺炎である。その予防には口腔清帰を中心とした歯科医療担当者の果たすべき役割 が非常に大きいとされている。本研究では特別養護施設及び在宅の要介護高齢者の口腔含嗽液を使用し、その中に含まれる潜在的呼吸器感染症病原体を検出し た。 PCR法による肺炎レンサ球菌の検出、培養法によるMRSAを含む黄色ブドウ球菌、緑膿菌及びカンジダ・アルビカンスの検出と菌数算定を実施し、同時に被 験者の口腔衛生状態を検査して相関関係を調べた。調べた感染率及び菌数は共に口腔衛生状態の悪い高齢者ほど高い値を示し、歯科衛生士を中心とした専門的口 腔ケアが行われている施設入居者においては顕著に低い値を示した。本研究結果は、要介護高齢者に対する口腔ケアが機能の維持に限らず、肺炎の予防などを含 めて人々のQOLを支える重要な役割を担っているということを裏付けるものと考える。
準優勝:高橋 暁子, 北海道大学歯学部, 6年生
ポリカーボネートクラウンからビスフェノールAを溶出させる因子
生体内でホルモン活性を示す化学合成物質が注目を集め、環境ホルモンと呼ばれている。歯科領域では、その一つであるビスフェノールA (BPA)が材料から溶出する可能性が指摘されており、シーラントやコンポジットレジンについて研究報告がなされている。しかし、既製のテンポラリークラ ウンの主成分であるポリカーボネートについてはBPAを原料としているが報告はない。そこで本研究では、同材料からBPAを溶出させる因子を検討し、口腔 内環境と比較考察した。ポリカーボネートクラウンを有機・無機の各溶媒中に浸漬した後、高速液体クロマトグラフィーを用いて溶出成分を分析し、各種条件を 検討した。その結果、溶出因子として、(1)溶媒の脂溶性および分子量、(2)温度、(3)pHが考えられた。
第3位:高橋 一郎, 日本大学歯学部, 4年生
漢方薬の抗うつ作用および鎮痛作用に関する検討
漢方薬は、本邦では歯科臨床で心因性疾患にも用いられている。仮面うつ病などの歯科心身症は、多くの場合痛みと深く関連しているが、それらに用いら れる漢方薬の抗うつ作用や鎮痛作用についての基礎的な研究は少ない。そこで、漢方薬のなかでも臨床において心因性疾患に効果が期待されている補中益気湯、 抑肝散および柴胡加竜骨牡蛎湯を選び、それらの抗うつ作用と鎮痛作用について実験を行った。その結果、マウスの絶望状態モデルを用いて抗うつ作用を判定し た場合、いずれの漢方薬の慢性投与(2週間)も、人の1日量に相当する60mg/kgでは抗うつ薬のimipiramineと同様の作用を示した。また、 酢酸ライジング法を用いて鎮痛作用を判定した場合、いずれの漢方薬も鎮痛作用を示すことが認められた。以上の結果は、これらの漢方薬の歯科心身症に対する 有用性を実験薬理学的に支持するものである。
樫村 太郎, 日本大学松戸歯学部, 4年生
口腔内における再石灰化のRGB計測
エナメル質初期齲蝕は、臨床においてしばしば白斑として観察されることがあります。その齲蝕は、そのままの状態で維持される場合もありますが、時と して進行が速く、実質欠損を伴い象牙質に至ります。特に、小児の場合、歯牙の構造的弱さ、歯磨きの不慣れ等で進行していくことが多くあります。エナメル質 初期齲蝕を出来るだけ安定した状態で、長期にわたり維持することは、齲蝕予防の観点からおおいに意義のある事と考えられます。今日、齲蝕予防には、フッ素 を用いた塗布法、イオン導入法や洗口法等が行われていますが、本実験では、簡便な方法である洗口法を用いて、再石灰化に重要な因子と、再石灰化の程度を歯 質の色の変化により検討しました。
竹内 秀人, 鹿児島大学歯学部, 4年生
合成ペプチド、T22およびT134の抗ヒトレトロウイルス作用
病原性ヒトレトロウイルスとして、AIDSの原因ウイルスであるHIVと、ヒト成人T細胞白血病(ATL)の原因であるHTLV-Iが知られてい る。 HIV感染症は、その爆発的な患者数の増加と高い致死性のため大きな社会問題となっており、またHTLV-IはATLへの発症率は低いものの、南九州に多 くのキャリアがみられ、また神経症状や関節炎などのHTLV-I関連疾患を起こすこともあり、ともに血液・体液を介して性行為や母子感染により感染が拡が る。さらに口腔治療を行う歯科医にとっても、これらのウィルス感染予防対策は重大な問題であるとともに、その感染・増殖を抑制する抗ウイルス薬の開発は重 要な研究課題である。最近、HIVの感染に関してはCD4分子以外に、ケモカインレセプターが重要な役割をもつことが明らかにされた。すなわち、T細胞に 感染しやすいHIVはαケモカインレセブターのCXCR4が、マクロファージ指向性HIVはβケモカインレセプターであるCCR5がそれぞれのコレセプ ターとして、ウイルスの細胞内侵入に重要な役割を持つ。カブトガニ由来の抗ウイルス作用をもつタキプレシンの構造を基に合成したペプチド、T22や T134は、HIVのエンベロープ踏蛋白質とCXCR4の結合を阻害することで、T細胞指向性HIVの感染を特異的に阻害する。HTLV-Iに関しては、 その細胞側のレセプターは未だ確認されていないが、同様にT22クラスのペプチドを加えることで、HTLV-I感染細胞(MT-2)と標的細胞(MOLT -4)との混合培養系で有意な感染阻止効果がみられた。このことから、HTLV-I感染においてもCXCR4が感染の成立に何らかの関与をしていることが 考えられた。それ故、これらのペプチドのヒトレトロウイルス感染におよぼす影響を詳細に検討した。
福田 多栄子, 大阪大学歯学部, 5年生
当附属病院の過去10年間における病理組織診断の統計学的及び疫学的解析
口腔内における疾病分布と最も高頻度にみられる口腔腫瘍である扁平上皮癌について、病理診断結果にもとづき、比較、分析をおこなった。従来からの一 般的認識や、成書によって得られる口腔扁平上皮癌の疫学的、統計学的数値の整合性を検証するため、1987年~1997年にわたる病理組織診断結果を用い て、口腔扁平上皮癌の年齢別、性別、部位別分布に関し、より新しい、より地域的な分析結果を得た。全体として女性の割合に増加がみられたが、口腔底および 臼後部においては、依然として男女比は3倍以上であった。部位によって、年齢構成にばらつきがみられた。また、得られた分析結果を他の文献のものと比較す ることにより、舌、口唇、口腔底への罹患割合に、大きな差異が認められた。
本間 裕章, 日本歯科大学新潟歯学部, 4年生
キシリトールがStreptococcus mutansの増殖と不溶性グルカン産生に及ぼす影響について
キシリトールがStreptococcus mutansの増殖と不溶性グルカン産生に及ぼす影響について、キシリトール単独存在下およびグルコース、またはスクロースとの共存下において検討した。 キシリトール単独では、5%以上添加すると明らかにS. mutans群の増殖を抑制し、キシリトール単独添加では酸産生、不溶性グルカン産生は認められなかった。1%スクロース存在下で、1~10%キシリトー ル添加では、S. mutansの増殖および酸産生には、全く影響を与えず、増殖、酸産生、不溶性グルカン形成とも1%スクロースのみと同様であった。キシリトール20%添 加では、S. mutansの不溶性グルカン形成、酸産生とも抑制され、キシリトール40%添加でS. mutansの増殖、不溶性グルカン形成、酸産生が阻止された。
村田 愛, 日本歯科大学歯学部, 4年生
歯科用デンタルフィルムの画像解析と骨密度の評価
歯科用X線フィルム像から骨(密度、構造)を評価することは難しい。しかし、X線フィルム像の解析は歯科治療において重要な情報源である反面、骨密 度や骨梁など骨内部の詳細な構造までの読影は困難である。そこで撮影条件、現像条件を一定化し、コンピューターによる画像処理を行い、さらに、軟X線によ る下顎骨の断面の構造解析を行うことで、効果的なデンタルフィルムと骨の読影をおこなった。その結果、骨の解析にはデーター化された値を評価することが有 効とされることがわかった。今後は例数を加えることにより、データー化された値の評価の精度を高めることができると考えられ、このことは骨の評価を必要と されるインプラントを含めた歯科治療に有効な手段であると思われる。
山口 雅人, 広島大学歯学部, 5年生
高等学校におけるスポーツテストの潜在因子と咬合状態との関連性
近年、身体運動能力と咬合状態等との関連性についての研究、いわゆるスポーツ歯学が脚光をあびてきた。本研究ではスポーツテストの潜在因子と咬合状 態との関連性を検討することを目的とした。初めに、咬合状態(咬合圧、咬合力、咬合バランス)の測定尺度の再現性を検討した。その結果、咬合尺度の再現性 はほぼ良好であった。次に、某高等学校全野球部員を対象に各種スポーツテストの基本構成要素を因子分析法によって明らかにした。即ち、「等尺性筋力 (f1)」、「筋収縮能(f2)」、「等張力性筋力(f3)」と名付けることが可能な3つの因子が抽出された。これら3因子と咬合バランスとの有意な関連 性は認められなかったが、咬合圧が低いほど「筋収縮能(f2)」が高く、咬合力が強いほど「等張力性筋力(f3)」が高い傾向が認められた。以上のことか ら、咬合状態は身体運動能力に影響を及ぼしている可能性が示唆された。
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