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2016 年 6 月 のアーカイブ

第21回大会

2016 年 6 月 5 日 コメントはありません

第21回大会 2015年(平成27年)8月21日 参加校27校

タイトルおよび発表内容要旨 (上位入賞者を除き発表者氏名50音順)
※氏名・所属・学年は発表当時

優勝/日本代表 – 基礎部門 第1位:田中 大貴,東京医科歯科大学歯学部,6年生

閉経後骨粗鬆症モデルにおけるFactor X発現制御機構

 

準優勝 – 臨床部門 第1位:大平 匡徹,新潟大学歯学部, 4年生

種々の条件刺激がもたらす嚥下機能の変化

 

基礎部門 第2位:成昌 ファン,鹿児島大学歯学部, 5年生

メカニカルストレスによる間葉系幹細胞の分化能維持

間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell:MSC)は、自己複製能力を持つ多能性細胞であり、培養条件を変えることで、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞へと分化することができる。MSCは多継代培養によって分化能が喪失することが知られており、MSCの歯科臨床への応用を成功させるためには、幹細胞の分化多能性を維持させる新しい細胞培養法の開発が必要である。これまでの研究で、MSCを低出力超音波(LIPUS)によるメカニカルストレスで刺激すると、分化能維持に関わる遺伝子であるNanog, Oct4 , Sox2の発現が上昇することが分かった。そこでマウス脂肪組織由来MSC 及びマウス頭蓋冠由来骨芽細胞前駆細胞を継代する際、毎日120分間のLIPUSを照射しながら培養し、細胞の骨分化能の変化を解析した。その結果、LIPUSを照射することで、継代培養による石灰化基質形成の低下や骨分化マーカー遺伝子の発現レベルの減少が抑制され、MSCと骨芽細胞の骨分化能を維持できた。MSCを継代するとNanog,Oct4 ,Msx2の発現が減少していたが、LIPUS 刺激はこれらの遺伝子群の発現も回復させた。更に、この現象に関わるシグナル分子を探索したところ、MSCが骨や脂肪へ分化するに従って発現が減少する分子であるSykが、LIPUS 刺激によって強く活性化することが分かった。そこでMSCにSyk 阻害剤及びSyk 特異的siRNAを施すと、LIPUSによって誘導されるNanogの発現レベルの上昇が抑制された。MSCをメカニカルストレスで刺激しながら培養することで、細胞継代による分化能の喪失を防ぐことができる可能性がある。

臨床部門 第2位:中島 美咲,北海道医療大学歯学部, 6年生

歯科疾患予防のための『ムギネ酸抽出物含有“金平糖”』の開発

歯周病の予防には、現在ブラッシングが唯一の方法であるが、高齢者、要介護者などは、長期的に適切な
ブラッシングを継続することが事実上困難である。そこで、イネ科の植物根より分泌される鉄キレート物質であるムギネ酸を、食べやすく、親しみと懐かしさを覚える”金平糖”に添加したものを試作し、歯科応用、特に歯周病の予防に応用できないかと考えた。
ムギネ酸抽出物は、歯周病原性を示す4 種のグラム陰性桿菌(Porphyromonas gingivalis, Prevotella
intermedia, Fusobacterium nucleatum, Aggregatibacter actinomycetemcomitans )に対して抗菌性
を示し、歯周病原因子であるジンジパインの活性を有意に抑制することが確認された。また、その抽出物は、口腔由来培養生細胞に対して低為害性であることや炎症性サイトカインI L – 6の産生を抑制することが示された。さらに、試作した「ムギネ酸抽出物含有”金平糖”」が、唾液中のグラム陰性菌の増殖を著しく抑制したことから、「ムギネ酸抽出物含有”金平糖”」は歯周病の予防に有効であることが確認された。

安部 彬彦, 長崎大学歯学部, 6年生

5種類の表面処理剤がコンピュータ支援製作用コンポジットレジンと前装用レジンの接着強さに与える効果について

コンピュータ支援設計/コンピュータ支援製作(C A D / C A M)システムで加工されたコンポジットレジンクラウンが広く補綴治療に使用されているが、単一色のC A D / C A M 用コンポジットレジンブロックのみを使用しても、天然歯の色調を完全には再現できない。患者の審美的要求に応え、隣在歯との接触点を調整し、さらに破損したコンポジットレジンクラウンを補修するためにも、機械加工されたC A D / C A M 用コンポジットレジンに光重合型コンポジットレジンを前装する必要がある。しかしながら、C A D / C A M 用コンポジットレジンに対するレジンの接着に関する研究は少なく、表面処理剤の一成分として重合開始剤に着目した報告もなかった。そこで本研究では、5種類の表面処理剤がC A D / C A M 用コンポジットレジンと光重合コンポジットレジンとの接着強さに与える効果を調べることを目的とした。接着試験の結果、重合開始剤含有する2種類の表面処理剤を用いた場合、重合開始剤を含有しない3種類の表面処理剤に比べて接着強さが有意に高かった。また、シランモノマーの塗布よりむしろ界面の重合促進が、C A D / C A M 用コンポジットレジンと前装されたコンポジットレジンとの接着改善に寄与することが示唆された。

赤羽 由紀子, 日本歯科大学生命歯学部, 3年生

口腔レンサ球菌の病原因子とバイオフィルム形成の関連性

口腔レンサ球菌は口腔において最も優勢な細菌群で、口腔バイオフィルムである歯垢(デンタルプラーク)を形成する。その形成には、グルカン産生を触媒するグルコシルトランスフェラーゼ(G t f)などの付着・定着に関わる病原因子が重要な役割を果たしていると考えられている。この研究では、口腔レンサ球菌のバイオフィルム形成と病原因子との間に、実際に因果関係があるかどうかを明らかにすることを目的として行った。健康な被験者より口腔レンサ球菌を分離し、バイオフィルム形成能をポリスチレン製U底マイクロタイタープレートを用いて測定した。また、病原因子としてP C R 法によるg t f 遺伝子の検出を行い、バイオフィルム形成能との比較検討を行った。その結果、口腔レンサ球菌と思われる野生型3 6 菌株のうち、2 0 株P C R 法によるg t f 遺伝子由来のD N Aの増幅が認められた。これらの株は、増幅されない株に比べて、バイオフィルム形成能が有意に高かった。今回用いたプライマーによるP C Rは、バイオフィルム形成能を評価する手段として、う蝕活動性試験などに臨床応用できる可能性が示唆された。

飯塚 基晴, 岡山大学歯学部, 4年生

がん浸潤・転移イメージングモデルの確立を目指した研究

がんは本邦における死亡原因の第一位である。さらに、がんの浸潤・転移はがん治療における大きな問題であり、そのメカニズムに関する研究は、がん患者の生存率向上に必須である。がん浸潤・転移メカニズムの解明にはin vitro/in vivo イメージングモデルが極めて有用と考えられるので、我々は既報のがん浸潤・転移モデル系を用いて、浸潤・転移関連遺伝子発現の可視化を試みた。本研究では、既知の浸潤・転移関連遺伝子のプロモーター配列を蛍光レポーター遺伝子上流へ組み込んだプラスミドベクターの構築を行い、さらに蛍光ベクターの高転移性ならびに低転移性のがん細胞株への遺伝子導入によって、これら関連遺伝子プロモーター支配下で自ら蛍光発光する高転移性ならびに低転移性細胞の単離に成功した。本研究で得られたこれらの可視化細胞株は、in vitro/in vivo イメージング以外に、がん浸潤・転移制御因子の同定や新規抗がん剤の機能的スクリーニングなどにも極めて有用であると考えられる。

石倉 枝美里, 日本歯科大学新潟生命歯学部, 4年生

細胞老化に対するコーヒー成分クロロゲン酸の効果
-コーヒーは歯周病に起因する老化をレスキューするか?-

 

大田 圭一, 北海道大学歯学部, 6年生

呼吸のリズムと量の随意的調節による唾液分泌促進の可能性

口腔乾燥に対する非薬物的な対症療法の確立が待たれる。本研究では呼吸のリズムや量を随意的に調節することによる自律神経活動の変化と唾液分泌促進との相関を検証した。健常成人2 1 名を被験者とし、5 分間の唾液分泌量と、唾液アミラーゼ活性を測定した。自律神経活動機能評価のために心拍変動( 心拍数、R M S S D)を測定した。呼吸条件は第1 回、第3 回、第5 回:自然呼吸、第2回:深呼吸( 6回/ 分)、第4 回: 頻呼吸( 3 0 回/ 分)とした。第1回と各回のデータを比較した。その結果、深呼吸による唾液分泌量変化率から唾液量増加群と唾液量減少群に分けられた。増加群は基本的な唾液分泌量が少なく、減少群は基本的な唾液分泌量が多かった。増加群は深呼吸時に唾液分泌量と心拍数が有意に増加した。減少群は深呼吸時、頻呼吸時に唾液分泌量が有意に減少し、深呼吸後、頻呼吸後にR M S S Dが有意に減少した。各測定項目に相関関係はみられなかった。随意的な深呼吸により唾液分泌促進に効果がある可能性が示されたが、基本的な唾液分泌量の個人差に大きく影響される事も明らかとなった。自律神経活動の変化と唾液分泌量との相関は現時点では未確定で、今後解明していく課題となった。

小方 昌平, 徳島大学歯学部, 5年生

ドクダミ(Houttuynia cordata Thunberg)の口腔領域への応用

う蝕、歯周病は1 3 歳でのう蝕有病者率が9 0%を越え、6 4 歳で歯周病の有病者率が8 2 . 5%( 平成2 6年度厚生労働省、歯の健康)となっており依然として大きな問題である。また、肺炎は平成2 3 年に死因の第3位となり、その中でも高齢者の誤嚥性肺炎は特に注目されており、この予防は歯科の大きな課題の一つとなっている。
ドクダミは、東アジア地域に分布し、日本の民間生薬のひとつとして古くから用いられてきた。効能としては抗菌活性を有していることから化膿性皮膚炎などにも利用されてきた。本研究ではドクダミを口腔領域へ応用することの可能性について検討した。
今回、2つのドクダミ試料(d H C、w H C P)を用いて、抗菌活性、バイオフィルム形成抑制能、L D H 細胞障害性試験、抗炎症作用について検討を行った。その結果、w H C Pは抗菌活性を有していた。バオフィルム形成抑制実験において、S . m u t a n s のバイオフィルム形成量は約1 / 6に減少しており、C . a l b i c a n s では、約1 / 1 0まで減少していた。細胞毒性は認められなかった。また歯肉上皮細胞に対しては、 I L – 8 産生量を減少させることから抗炎症作用を有していることが確認された。
以上よりドクダミは、口腔領域への応用が期待される植物であることが明らかとなった。

大樹 慶太, 九州歯科大学歯学部, 6年生

培養細胞を用いたC O X 阻害薬の多様な作用の検討

酸性非ステロイド性抗炎症薬(N S A I D s)の主な作用はシクロオキシゲナーゼ(C O X)の活性阻害である。一方N S A I D sには糖尿病や癌の治療に効果を示すものもあり、C O X 以外の標的の存在が示唆される。新たな作用の発見や標的分子の同定はNSAIDsの有効利用を促進すると考えられる。私たちは、C O X 以外にも作用するN S A I D sは、抗炎症作用以外の細胞機能を指標に検索すればC O X 阻害活性に比例しない効果を示すと考えてこれを検証した。
ヒト口腔癌由来細胞株(C a 9 – 2 2、S A S)の細胞遊走能に対する種々のN S A I D sの影響を調べたところ、c e l e c o x i b、e t o d o l a cにて顕著に抑制されたが、他のN S A I D s では効果を認めなかった。マウス骨芽細胞様細胞株(M C 3 T 3 – E 1)を用いた骨芽細胞の分化についてはc e l e c o x i b 及びvaldecoxibがこれを強く抑制した。上記のNSAIDsの効果は各々のCOX 阻害活性と相関していなかったことから、C O X 以外の標的を介した作用であることが示唆され、仮説を支持するものであった。これらの作用の機序解明は、N S A I D sの新規利用法に繋がることが期待される。

川島 央暉, 日本大学松戸歯学部, 4年生

食生活が分泌型I g A 産生に与える役割

日々の食生活が免疫機能に与える影響は大きい。現在われわれの食事には多くの脂肪が含有されており、日々脂肪が蓄積されている。肥満者は種々の感染症や癌の発症率も高いことが報告されており、これは肥満によって生じる免疫機能の低下が関与していると推測されている。高脂肪食を食べ続けた場合、腸管内の細菌のバランスが崩れ、概日リズムが正常ではなくなり免疫機能に大きなダメージを与えるのではないかと考えた。我々はマウスを普通食群と高脂肪食群の2 群に分けて飼育した。マウスの唾液腺と腸を用いて、分泌型I g A 抗体の産生や関連因子の発現を検討した。その結果、高脂肪食摂取群では高濃度の分泌型I g A 抗体の産生を認めた。さらに、I g Aクラススイッチ関連遺伝子群の発現の上昇を認めた。他の方で、分泌型I g Aが管腔側へ輸送するp I g Rには発現リズムが通常食摂取マウスと大きく変動することを認めた。以上の結果から高脂肪食の習慣的摂取は、生体の恒常性を維持する概日リズムの変調を来すことで、免疫機能が破綻していくと考えられる。

甲山 尚香, 昭和大学歯学部, 5年生

妊娠マウスへの抗RANKL抗体の投与は新生仔の大理石骨病を誘発する

骨吸収抑制剤デノスマブは、破骨細胞の分化誘導因子であるR A N K Lに結合するモノクローナル抗体を主成分とし、骨転移を伴う癌や骨粗鬆症の治療に用いられている。しかし、妊婦には禁忌であるため、母体や胎児への作用は不明である。そこで我々は、抗R A N K L 抗体を妊娠マウスに投与し、それが骨組織に及ぼす影響について解析した。妊娠1週目のマウスに抗マウスR A N K L 抗体( 5 m g / k g)または生理食塩水( 対照群)を投与したところ、いずれも同じ日数経過後に生きた新生仔を出産した。それらの骨格標本を比較した結果、外見上の差は認められなかったものの、組織透明化試薬およびμC Tを用いた解析により、抗体投与マウスにおいて骨髄腔の閉塞を伴う大理石骨病の発症を認めた。また、抗体投与マウスの長管骨や脊椎骨では、対照群に比べ破骨細胞が著しく減少していた。一方、抗体投与した母マウスの骨量の増加も認められた。以上より、投与した抗R A N K L 抗体は胎盤を通過後、胎児の破骨細胞形成を阻害することによって新生仔の大理石骨病を発症させたと考えられる。すなわち、妊婦へのデノスマブ投与は胎児の骨代謝に異常をもたらすことが予想される。

鹿間 聡子, 朝日大学歯学部, 4年生

歯科法医学研究
-災害犠牲者の身元確認のために歯科所見から得られる情報の検討-

2 0 1 2 年と2 0 1 3 年に施行された2つの法律では、大学における法医学/歯科法医学に係る教育および研究の充実、死因または身元究明のための科学的調査の実施体制の整備および身元究明に係る歯科医師の育成および資質の向上が明記されており、歯科法医学の重要性が示された。本研究では、実際の災害犠牲者の身元確認に利用できるような信頼できる歯科所見を得ることができるかどうかを確認するために、乾燥頭蓋骨と抜去歯を試料として歯科医学的な情報を採取し、デンタルチャートを作成して、その情報を検討した。
その結果、咬耗度分類に基づく推定年齢の調査により、実際の年齢に近い年齢が推定できると考えられた。また、乾燥頭蓋骨のデンタルチャートを作成し、検討したところ、年齢だけでなく生前の生活習慣が推定されることがあることが判明した。
歯の形態や歯列、治療痕などの歯科所見は万人不同であり、歯は白骨化遺体でも残るため、歯科所見は極めて特異性の高い個人識別法であることが確認された。将来、大規模災害が発生した際には、歯科医師として犠牲者の身元確認に貢献できるよう歯科法医学の知識や技術を習得しなければならないと認識した。

土屋 寛奈, 広島大学歯学部, 5年生

可溶型F G F R 2 bの組織特異的な分布が頭蓋顎顔面形態形成におけるF G F 1 0 – F G F Rシグナルを調節する

線維芽細胞増殖因子(F G F 1 0)は上皮- 間葉相互作用における間葉側因子として知られているが、間葉系細胞に直接作用するとの報告もあり、骨・軟骨形成を制御する可能性がある。そこで、F G F 1 0を過剰発現する遺伝子改変(T G)マウスを作製し、骨・軟骨への影響を解析した。T Gマウスは肥大軟骨、骨の低形成を伴う骨格系の劣成長を示した。これらの所見は頭蓋顎顔面で顕著であったが、一方で鼻中隔軟骨のように過形成を呈する組織も見られた。FGF 10の受容体FGFR 2の遺伝子発現解析から、骨・軟骨に新しいアイソフォームを同定した。しかし、このアイソフォームは鼻中隔に発現していなかった。予想される翻訳産物はF G F R 2 bの可溶型受容体(s F G F R 2 b)と推測され、前軟骨細胞株A T D C 5の培養上清中にも検出された。同細胞にsFGFR 2 bを過剰発現させると細胞増殖が促進されたことにより、同受容体はデコイ受容体として機能すると考えられた。以上より、T Gマウスでは、過剰なF G F 1 0 が特定の骨・軟骨においてs F G F R 2 bを捕捉することによりF G F – F G F Rシグナルのバランスが破綻し、骨・軟骨形成が障害されたものと推察される。

根本 恭利, 東北大学歯学部, 6年生

A T P – P 2 Rシステムを介した唾液腺細胞による炎症性サイトカイン産生の誘導

細胞外A T PはP 2 受容体(P 2 X RとP 2 Y R)を介して細胞を活性化し、炎症反応や組織障害を誘導する。唾液腺においてもA T P – P 2 Rシステムによる唾液腺障害の誘導が示唆されている。本研究では、ヒト唾液腺導管由来細胞株であるH S G 細胞を用いて、P 2 Rを介した炎症性サイトカイン産生の誘導について解析した。
A T P 刺激H S G 細胞では、刺激濃度に依存したI L – 6 産生の増加が認められた。A D P、U T PおよびU D P 刺激でもA T P 刺激と同程度のI L – 6 産生が誘導され、アゴニストの選択性から、P 2 Y 4の関与が示された。また、細胞外C aイオンをキレートすることにより、A T P 刺激によるI L – 6 産生誘導が部分的に抑制されたことから、イオンチャネル型受容体であるP 2 X Rの関与も示唆された。さらに、A T P 刺激H S G 細胞では、I L – 8、V E G Fおよびplasminogen activator inhibitor-1の産生増強も認められた。
以上の結果から、細胞外A T PはP 2 Rを介して唾液腺細胞による炎症性サイトカイン、ケモカインおよび血管新生促進因子などの産生を誘導し、唾液腺疾患に関与していることが示唆された。

長谷川 祥, 東京歯科大学, 6年生

鎖骨頭蓋異形成症患者の抜去過剰歯歯髄細胞由来i P S 細胞の作製

鎖骨頭蓋異形成症( C C D )は、常染色体優性遺伝の疾患であり、鎖骨低形成、頭蓋骨縫合骨化遅延、歯の放出異常などを特徴とする大変稀な疾患である。i P S 細胞はその増殖能と多分化能から再生医療の移植細胞のソースとしてだけでなく、治療法の確立されていない遺伝性疾患に対する病態再現や創薬への応用にも期待されている。本研究は本学倫理審査委員会にて承認済みである( 承認番号5 3 3 )。
患者に研究の目的・趣旨を十分説明し同意を得て、本学口腔外科外来において口腔組織あるいは治療目的に過剰埋伏歯を抜去し、口腔粘膜組織から作製した細胞(C C D 3 1 8 – M)および過剰埋伏歯歯髄から作製した細胞(C C D 3 1 8-P)いずれも線維芽細胞様形態をもつ細胞を得た。これらをi P S 細胞作製における4因子を発現させるセンダイウイルスベクターで処理し、各々から密集した小さな細胞質を持つi P S 細胞様のコロニーを確認し、クローンを得ることに成功した。口腔は細胞活性の高い結合組織に富んでおり、i P S 細胞の製作に適した細胞を得ることが可能である。治療において得られる抜去歯の歯髄細胞は、i P S 作製の有用なソースとなり得ることが示された。

濵田 歩実, 鶴見大学歯学部, 3年生

コンパニオン・アニマルの歯周病予防
-抗歯周病菌活性をもつ餌材料の発見-

コンパニオン・アニマルであるイヌとネコの8 0 %が4 才までに歯周病を発症すると推定されており、歯周病予防はペットの健康管理上重要な課題である。ヒトと異なり歯ブラシによる口腔ケアは難しく、飼い主の高齢化ではさらに難易度が上がるが、簡便な予防方法が存在しない。そこで、餌に利用される天然の材料中に、歯周病菌に対し抗菌性があるものを見出し、餌に配合しペットの毎日の食生活で歯周病を自然に予防する可能性について検討した。被検菌株はPorphyromonas gingivalis ATCC 33277 とPorphyromonas gulae ATCC 51700で、ココアまたはテオブロミン除去ココア粉末、p Hを中性に調整したキウイ果汁、タマネギ乾燥粉末を用い、抗菌試験とトリプシン様酵素活性の検出を行った。その結果、すべての試験材料に両菌種に対する抗菌性とトリプシン様活性抑制効果が認められた。したがって、ココアとともにキウイとタマネギを餌に配合することで歯周炎の発症予防に有効と考えられた。また、異なる複数の天然成分を低濃度ずつ含有させることで、生体に対して為害作用を抑えることができるものと考えられた。

林 彩, 福岡歯科大学, 4年生

細胞老化に対するコーヒー成分クロロゲン酸の効果
-コーヒーは歯周病に起因する老化をレスキューするか?-

コーヒーポリフェノールの一種であるクロロゲン酸 (C G A)については、動脈硬化や癌の予防に働く等の効能が昨今報告されており、中でも抗酸化作用が注目を集めている。嗜好品としてコーヒーが飲用される機会は多く、本研究では、「コーヒー飲用が、口腔内の健康に良い影響を与える」との仮説に立ち、ヒト角化細胞株H a C a T 細胞を用いて細胞老化に与える影響を検討した。老化誘導剤として用いたエトポシドは、老化マーカー (β – g a l)陽性細胞を有意に増加させた。また、細胞老化の原因となるD N A 損傷の指標であるリン酸化型ヒストンγ – H 2 A X、および老化にリンクするp 5 3 活性化も有意に増加させた。エトポシドによるこれらの老化誘導現象は、C G Aによって濃度依存的に抑制された。更に、歯周病原因菌Porphyromonas gingivalis 由来リポポリサッカライド(p g L P S)によっても、β- g a l 陽性細胞が増加し、C G Aによる抑制が観察された。これは、p g L P Sが細胞老化を促進することを示唆している。これらのことから、C G Aが細胞老化抑制に有効であり、また、口腔の健康にも有用である可能性が示唆された。

原田 慎之介, 九州大学歯学部, 4年生

脱落歯の保存液がヒト歯根膜細胞の増殖ならびに表現型に及ぼす影響

外傷などにより脱落した歯を再植する際、再植までの時間と保存状態が予後に大きな影響を及ぼす。本研究ではヒト歯根膜細胞を用いた培養系を用いて、身近に入手可能な飲料水の、脱落歯の保存液としての適性の有無に関して検討することとした。飲料水には、オレンジジュース(O J)、スポーツ飲料(I D)、牛乳(M K)、水道水(T W)を使用し、これらに浸漬したヒト歯根膜細胞の生存率、増殖能、形態変化及び歯根膜関連遺伝子発現について解析した。
細胞生存率に関しては、OJ 浸漬群及びID 浸漬群で、浸漬2時間後にはほぼ0 %の値を示した。TW 浸漬群では、4時間浸漬後に細胞生存率が減少した。MK 浸漬群の生存率は、浸漬時間に影響を受けず100 %に近い値を示し、細胞形態にも変化はなかった。一方、細胞増殖能はOR 浸漬群及びID 浸漬群で喪失したが、TW 浸漬群は、浸漬後1時間までは増殖能を示した。MK 浸漬群の増殖能及び歯根膜関連遺伝子発現は浸漬時間に関係なく維持された。
上記結果より、MKが歯の保存液として最適であることが示唆された。臨床にて歯の脱落後にMKの入手が困難な場合、脱落後1時間程度であればTWでも代用できる一方、OR 及びIDは歯の保存液としては適さないと考えられる。

日置 崇史, 松本歯科大学, 5年生

咀嚼回数を意識すると食べ物の選択は変わるか?

現代社会では、個人の食品選択の基準の多くが、好き嫌い、値段および簡便さなどにあり、その選択の結果、多くの人が栄養の偏った食生活を送り、それが様々な生活習慣病の引き金となっている。そこで、食品選択の新たな基準として、咀嚼回数という項目の追加を提案したい。多くの人は野菜や肉類を良く噛むものと捉えているという考えの元から、食品を選ぶ際に噛む回数を増やす意識を持つと、これらの食品をより多く選択し、栄養バランスがとれた食事になると考えた。そこで、「咀嚼回数を多くすることを意識すると、栄養バランスの良い食事となるように食品を選択する」との仮説を立てた。バイキング形式で1回目は自由に、2回目は「噛む回数が多くなるように食事をして下さい。」との指示を付け加え、夕食を摂ってもらった。1 0 名の被験者を、2回目の食事において食品選択の段階から咀嚼回数を増やすことを考慮した群( 選択考慮群)と、しなかった群( 選択非考慮群)に分けて、2回の食事内容の変化を分析した。本結果から選択考慮群は、野菜とそれに伴う栄養素の摂取の割合が多くなった。咀嚼回数への意識が、栄養バランスの良い食事を摂ることに繋がる可能性が示された。

東 健一郎, 奥羽大学歯学部, 5年生

虚血再灌流により発生した活性酸素は咬筋に障害を引き起こす

虚血再灌流障害は、対象の組織・臓器において虚血による酸欠状態、及びそれに続く再灌流により発現する活性酸素等によって引き起こされる。これまで虚血再灌流障害は主に中枢神経系において検索されており、口腔領域における虚血時間とその後の障害について検討した報告は国の内外に存在しない。そこで今回、虚血再灌流モデルラットを用い、咬筋における活性酸素の発現を活性酸素合成酵素(N o x)の局在から検討した。本研究ではラットの左側総頸動脈を3 0、6 0、1 2 0 分間結紮し、再灌流を6 0 分間施した。灌流固定後に咬筋を摘出し、切片を作製、各抗体により免疫組織化学的染色を行った。その結果、コントロール群ではN o x 4の微弱な反応がみられたのに対して、6 0 分結紮群では、コントロール群でみられなかったN o x 1、2の陽性反応が出現、N o x 4は反応性が増強していた。1 2 0 分結紮群ではN o x 1、2、4の反応性はさらに増強し、陽性部位は筋線維全体から辺縁部に限局した。以上のことから、咬筋における虚血再灌流障害でも多量の活性酸素が合成され、アポトーシスを引き起こすことが推測された。

藤尾 真衣, 大阪歯科大学, 5年生

きな粉は苦味マスキング剤となりうるのか?

苦味を有する薬剤は様々な方法でその苦味を抑制して使用される。その一つに苦味そのものを抑制する苦味マスキング剤を用いる方法がある。家庭で手に入る食品が苦味マスキング剤となれば、苦味を有する薬剤の摂取時に気軽に利用できるのではないかと考えた。様々な食品をスクリーニングした結果、きな粉に着目した。本研究では、きな粉の苦味抑制効果を官能評価および苦味センサーを用いて検証した。その結果、きな粉は多くの苦味成分を抑制し、特に疎水性の苦味成分を効果的に抑制することを明らかにした。また、苦味センサーを用いた苦味強度を定量的に評価する実験においても、塩酸キニーネや安息香酸デナトニウムに対してきな粉が有意に苦味を抑制していることが示された。次いで、きな粉が苦味を抑制するメカニズムをきな粉からマスキング成分を抽出し、得られた成分を動的光散乱法により評価した。その結果、抽出した懸濁液は数1 0 0 n mの粒子を形成していることを見出した。最後に、実際の薬剤に対する苦味マスキング効果の実現可能性について検討したところ、咳止めシロップ薬にきな粉を加え混和することで苦味強度が低下する結果が得られた。

尤 雅田, 明海大学歯学部, 4年生

歯の移動に伴う組織変化に対する漢方薬の影響

歯科矯正治療時に負荷される矯正力は、一週間程度継続する疼痛を誘発し矯正治療継続へのモチベーションを低下させる。しかしながら、歯の移動に影響を及ぼさず疼痛をコントロール可能な鎮痛薬は存在しない。そこで、演者は歯痛などに保険適応のある漢方薬で、C O Xを阻害しないことが報告されている立効散に着目し検討を加え、立効散は仮性疼痛反応( 酢酸W r i t h i n g s y n d r o m e 法)ならびに矯正力負荷によって生じる三叉神経領域の侵害受容反応( 開口反射)活性の上昇を抑制することを報告してきた。本実験では、矯正力負荷によって三叉神経領域に生じる組織学的変化に対する立効散ならびにアスピリン投与の効果を検討した。その結果、矯正力負荷直後に認められる歯の移動を立効散ならびにアスピリンは阻害しなかった。また、片側上顎臼歯への矯正力負荷は、両側三叉神経節Ⅱ枝領域のサテライトグリア細胞(S G C s)を活性化することが認められ、立効散ならびにアスピリンの投与は開口反射活性とS G C s 活性の両方を抑制することが明らかになった。これらのことは、立効散が矯正治療効果を妨げない鎮痛薬として適用が可能であることを示している。

横田 元熙, 大阪大学歯学部, 4年生

R E M 睡眠でも実験的に咬筋活動を誘発できる

R E M 睡眠では、興奮性ニューロンの活動が停止し、抑制性ニューロンが三叉神経運動ニューロンを抑制するため運動が生じないとされる。しかし、睡眠時ブラキシズムの患者では、咀嚼筋活動がR E M 睡眠でも発生し、その仕組みは不明である。本研究では、R E M 睡眠で強い抑制下にある咬筋運動ニューロンに興奮性入力を与え、咀嚼筋の活動性を調べた。モルモットの三叉神経中脳路核を電気刺激して咬筋単シナプス反射を誘発し、反射応答の誘発率、振幅、潜時を覚醒レベルごとに算出し、比較した。
その結果、各覚醒レベルで、反射応答の誘発率と振幅は刺激強度の上昇と共に増加した。また、これらの変数はR E M 睡眠では、安静覚醒やN R E M 睡眠よりも低い値を示した。しかし、反射応答の潜時は一定であった。以上の結果から、R E M 睡眠で強い抑制下にある咬筋運動ニューロンに興奮性入力を与えれば咀嚼筋は活動するが、一定の筋活動を発揮するには、安静覚醒やN R E M 睡眠よりも強い興奮性入力が必要であることが示された。従って、R E M 睡眠で発生するブラキシズムは、咬筋運動ニューロンの抑制を凌駕する強度の興奮性シナプス入力によって発生する可能性が示唆された。

李 埈, 神奈川歯科大学, 4年生

Porphyromonassalivosa ATCC 4 9 4 0 7 株線毛の歯周炎における役割に関する研究

P o r p h y r o m o n a s s a l i v o s a は、黒色色素産生グラム陰嫌気性桿菌であり、イヌやネコを含む様々な動物の歯肉溝から分離される。細菌表層に存在する線毛は、宿主細胞への定着・侵入因子として重要な因子であるが、P . s a l i v o s a 線毛に関する病原性状の報告は未だない。本研究はP . s a l i v o s a 線毛の歯周炎における役割について検討することを目的とした。P . s a l i v o s a 線毛タンパク質の精製はD E A E – S e p h a r o s e C L – 6 Bを用いて陰イオンカラムクロマトグラフィーにより行った。また、精製線毛による破骨細胞分化誘導能およびサイトカイン産生誘導能については、マウス細胞を用いた。実験的歯周炎はS p r a g u e – D a w l e y 系ラットを用いてP . s a l i v o s a 菌液を直接口腔内に接種して行った。その結果、P . s a l i v o s a は、P . g i n g i v a l i s 線毛とは分子量および抗原性が異なる60 -kDa 線毛を有していた。また本菌線毛タンパク質には、破骨細胞産生誘導能、炎症性サイトカイン産生誘導能が認められた。実験的歯周炎モデルにおいてP. salivosa ATCC 49407感染では有意な歯槽骨吸収が認められた。これらの結果からP. salivosa 60-kDa 線毛は破骨細胞分化誘導能、炎症性サイトカイン産生能を有し、本菌がラット実験的歯周炎モデルにおいて顕著な歯槽骨吸収を示したことから、ネコの歯周炎においてP . s a l i v o s a 6 0 – k D a 線毛が重要な病原因子であることが示唆された。

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