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2013 年 12 月 のアーカイブ

第19回大会

2013 年 12 月 13 日 コメントはありません

第19回大会 2013年(平成25年)8月21日 参加校22校

タイトルおよび発表内容要旨 (上位入賞者を除き発表者氏名50音順)
※氏名・所属・学年は発表当時

優勝/日本代表 – 臨床部門 第1位:王 碩,岡山大学歯学部,4年生

なぜ煙草をやめると太るのか?

煙草の主成分であるニコチンは、交感神経系への薬理作用を示し、交感神経の神経伝達物質であるノルアドレナリンは摂食を抑制すると考えられている。われわれは「煙草をやめると太る」機序を明らかにするため、シナプス間隙でノルアドレナリン量の調節に重要なノルアドレナリントランスポーターに着目し、ノルアドレナリントランスポーター発現に対するニコチンの影響をラットおよび培養細胞を用いて検討した。その結果、ニコチンは、短期的にはノルアドレナリントランスポーター発現を増加させるが、長期的には減少させるという二相性の効果を示すことが明らかとなった。これは、慢性的な喫煙はノルアドレナリントランスポーター発現を抑制し、シナプス間隙のノルアドレナリンを増加させることにより摂食を抑制しているが、禁煙はニコチンによるノルアドレナリントランスポーター発現抑制作用を解除することになり、シナプス間隙のノルアドレナリンの減少による摂食量の増加を介して、体重増加に繋がる可能性を示すものである。さらに、ニコチンはノルアドレナリントランスポーター転写活性には影響しないことから、その作用点として転写後修飾に関与することが示唆された。

準優勝 – 基礎部門 第1位:坂本 真一,広島大学歯学部,6年生

Porphyromonas gingivalis (P.g.)の歯性感染によって非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の病態が増悪する
- 肝臓に到達したP.g.-LPSやP.g.が肝細胞に与える影響 -

肥満者の脂肪肝から発症する非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、肝硬変や肝癌へと進展するため重大な健康問題である。私の研究している教室では、高脂肪食(HFD)誘導脂肪肝モデルを用い、P.g.歯性感染がNASHの炎症、線維化、脂肪沈着などを増悪することを報告した。私は、歯性感染病巣から侵入したP.g.P.g.-LPSが肝細胞に作用し、これらの変化に関与すると考え、P.g.P.g.-LPSが肝細胞に及ぼす影響を調べた。①P.g.-LPSの影響:脂肪化肝細胞ではP.g.-LPSの受容体であるTLR2発現が著しく上昇し、IL-1b, IL-6, MCP-1などの炎症性サイトカインが過剰に産生され、炎症や線維化が進行する可能性が示唆された。②P.g.感染の影響:P.g.は肝細胞に感染・侵入した。特に脂肪化肝細胞ではP.g.感染数が増加した。また、P.g.感染によって肝細胞の脂質代謝関連受容体(LDLR、LRP1)の発現が増加し、脂肪の取り込みを促進する可能性が示唆された。
以上、P.g.P.g.-LPSは肝細胞のサイトカイン産生や脂質沈着を促進し、NASHの病態増悪に関わることが明らかとなった。

臨床部門 第2位:岡部 佑妃子,日本歯科大学生命歯学部,5年生

新たに考案した歯肉血流測定法と歯肉マッサージによる血流量の変化

歯ブラシによる口腔清掃はプラークを除去だけでなく、歯肉の血流促進を期待した歯肉マッサージ効果もあると考えられている。そこで、歯肉マッサージの効果を報告した文献検索したところ、レーザードップラー血流計で歯肉血流量を測定しているものが多かった。しかし、その測定法の再現性には疑問があった。
そのため、まず、レーザードップラー血流計の測定プローブの固定法を自身で考案し再現性を検討することにした。素材の違う3種類の固定法;(1)スポンジ、(2)箸、(3)シリコン印象材で測定プローブを固定したところ、最も再現性の得られたのはシリコン印象材を使用した固定法であった。次に、6名の被験者に市販されている3種類の専用歯ブラシと自身の指で歯肉マッサージを行ってもらった。そして、レーザードップラー血流計とシリコン印象材を使用した固定法を用いて最も血流促進効果の得られる方法を検討した。その結果、専用の器具を使用すると個人差が大きく、むしろ自身の指で歯肉マッサージをする方が確実な血流促進効果を得られることが示唆された。

基礎部門 第2位:清水 綾,北海道医療大学歯学部,4年生

P.gingivalis由来LPSの長期刺激によるマラッセ上皮細胞のDNAメチル化

DNAのメチル化はエピジェネティクス修飾の一つであり、環境因子によって変化が引き起こされることがある。これまで主に悪性腫瘍で報告されてきたが, 最近になり悪性腫瘍以外の疾患での関与も報告されてきている。エピジェネティクス修飾の歯周病への関与も示唆されているが、その詳細はほとんど明らかになっていない。
歯垢中のリポポリサッカロイド(LPS)は、歯周病の発症や進行の主な原因である。DNAのメチル化は、環境因子の長期刺激によって引き起こされる。
本研究では、マラッセ上皮細胞をP.gingivalis由来LPSで長期間刺激することにより、p14、p15、p16、p53、IL-6およびIL-8のDNAメチル化に変化が起きているか否かについて検討した。
1ヶ月間、LPS(1μg/ml)で細胞を刺激すると多くの細胞が死に陥ったため、3日間LPSで刺激し3日間は刺激せず1ヶ月間培養を行った。このLPSによる長期刺激で、コントロールと比較しIL-6およびIL-8mRNAの有意な発現低下が認められたが、 p14、p15、p16、p53mRNA の発現に変化は認められなかった。メチル化特異的PCRで、コントロールと比較しIL-6遺伝子のメチル化は有意に上昇していた。
P.gingivalis由来LPSの長期刺激により、IL-6 遺伝子で、DNAの高メチル化が関与する可能性が示された。

井上 真紀, 九州歯科大学, 6年生

歯周病細菌貪食マクロファージの細胞死におけるβ-グルカンとデクチンの役割について

Gordonらにより、マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞上にデクチン-1とよばれるβ-1,3グルカン受容体が発現されていることが報告されて以来、デクチン-1の自然免疫系における役割が注目されるようになった。近年、デクチン-1は、自然免疫制御という点で生体防御機能に深く関わっていることを示唆する報告が散見される。そこで今回、我々はデクチン強発現マクロファージを用い、in vitroの実験系にて、歯周病原性細菌A. actinomycetemcomitansを貪食したマクロファージに見られる変化を調べた。
MTT assayにて、デクチン強発現細胞がA. actinomycetemcomitansを貪食した後、コントロール細胞に比べ致死活性の低下が見られた。さらに炎症性サイトカインIL-1βの産生を検証したところ、デクチン強発現細胞では遺伝子発現の減少およびELISA 法にて産生低下が認められた。一方で、デクチン強発現細胞におけるインフラマソームの関与を検証したところ、関連遺伝子およびタンパクの発現減少が認められた。
以上の結果から、デクチン-1は、A. actinomycetemcomitans感染マクロファージで誘導されるインフラマソームの活性を抑えることにより、細胞死を抑制することが明らかとなった。さらに、A.actinomycetemcomitans感染マクロファージの細胞死がpyroptosisにより誘導されることが示唆された。

大河 里沙, 大阪大学歯学部, 4年生

翻訳制御による細菌必須遺伝子の解析

近年、歯科領域においても薬剤耐性菌の蔓延が懸念されており、新たな抗菌薬の開発が期待されている。これまで抗菌薬の標的として、細菌の生存に必須の因子が候補として挙げられてきた。必須遺伝子の解析に変異株を作製することは不可能であるため、特定の条件下において発現抑制が可能なコンディショナル変異株が供試されてきた。本研究では、これまで変異が不可能であったレンサ球菌の転写因子に着目した。レンサ球菌では、大腸菌や枯草菌で用いられる遺伝子発現のon/offシステムを必須遺伝子の解析に用いることは困難であった。そこで、リボスイッチによる翻訳制御機構に着目し、低分子化合物を認識する人工リボスイッチを染色体DNA上のプロモーター領域に組込み、低分子化合物の存在下で翻訳が行われるコンディショナル変異株を作製した。培養系から低分子化合物を除去し、転写因子の翻訳量を減少させたところ、レンサ球菌の生育は抑制された。電子顕微鏡による菌体の観察から、細胞形態の異常が認められた。これらの結果から、リボスイッチを用いた翻訳制御は必須遺伝子群の解析に有用であり、解析を行った転写因子は抗菌薬の標的になりうることが示唆された。

小澤 諒, 東京医科歯科大学歯学部, 6年生

充填方法と材料が根管充填の到達度や充填率に与える影響

根管充填において、根尖部の封鎖性や充填材の緊密度は治療の予後を左右する大きな要因である。本実験では、充填材料と充填方法の違いが根管充填材の根尖到達度や側枝への侵入度、根管充填率に与える影響について調べた。充填材量はガッタパーチャとレジン系充填材を比較し、充填方法は側方加圧充填法と垂直加圧充填法を比較した。結論として、根尖への到達度および根管充填率を向上させるには、メインポイントを加熱し、より細かい部分に根充材を到達させることができる垂直加圧充填法が有利である。レジン系充填剤はガッタパーチャと比較して、充填率と根尖孔到達度において有意差が無く、側枝到達度は高いため、より低温度で使用できるレジン系充填剤の方が、垂直加圧根管充填に適していると思われる。

梶原 里紗, 昭和大学歯学部, 4年生

咬筋運動ニューロンに対するシナプス入力の生後発育変化

摂食行動は、発育に伴い吸啜運動から咀嚼運動へと大きく転換する。この転換期には、口腔諸器官の生後発達とともに、顎運動を制御する中枢神経機構も大きく変化すると考えられる。我々は、閉口筋運動ニューロンへの興奮性シナプス入力が生後発育に伴い増加するという仮説を立てた。そこで本研究では、幼若期ラット咬筋運動ニューロンからパッチクランプ記録を行い、咬筋運動ニューロンに誘発される興奮性微小シナプス後電流(mEPSC)の生後発育変化を解析した。
記録ニューロンの膜電位を-70mVに保持した状態で膜電流を記録したところ、tetrodotoxin、SR95531およびstrychnine投与下でmEPSCが観察された。mEPSCの振幅は、生後2-4日齢から生後9日齢の間で有意に増加した。さらに、個々のmEPSCが発生する間隔は、生後2-4日齢から生後9日齢の間で有意に小さくなり、mEPSCの発生頻度が増加した。また、mEPSCの減衰時間は生後2-4日齢から生後9日齢の間で有意に短縮した。
以上の結果から、ラット咬筋運動ニューロンへの興奮性シナプス入力の強度と頻度が生後発育とともに増加することが示された。このような咬筋運動ニューロンへのシナプス入力の発育変化は吸啜から咀嚼の転換に関与する可能性が考えられる。

北中 祐太郎, 徳島大学歯学部, 5年生

genipinがヒト歯根膜細胞のIL-6産生に及ぼす影響の解析

【目的】IL-6は歯周炎の炎症性骨吸収に関与しているサイトカインである。TNF-αは炎症性サイトカインであり、ヒト歯根膜細胞(HPDLC)のIL-6 産生を誘導することが報告されている。genipinはクチナシに含まれる成分であり、様々な生理作用を有していることが報告されている。しかしながら、genipinがHPDLCに与える影響については不明な点が多い。そこで、我々はgenipinがHPDLCのTNF-α誘導IL-6 産生に与える影響について検討した。
【材料および方法】HPDLCのIL-6産生はELISA法にて、IL-6産生に関与しているとされるNF-κBp65のリン酸化についてはwestern blot法を用い解析した。
【結果および考察】genipinはHPDLCのNF-κBp65のリン酸化を抑制することにより、TNF- α誘導IL-6産生を減少させることが明らかとなった。IL-6は破骨細胞を活性化し歯槽骨破壊に関与していることにより、genipinを歯周炎治療に用いる事ができる可能性が示された。

國兼 勉, 神奈川歯科大学, 3年生

歯内治療とBRONJ発症の関係について

【問題点】ビスフォスフォネート製剤誘発顎骨壊死(BRONJ)は, 一般的な歯科疾患に関連すると言われているが、決定的な治療法は未だ確立されていない。今回我々は、BRONJ実験モデルを用いた歯槽骨変化を組織学的に検討した。
【方法】Ovariectomy(OVX)を行ったICRマウスに対しAlendoronateを投与した。BRONJ誘導法として実験的に根尖性歯周炎を誘導しマイクロCT解析と病理組織学的解析を行った。
【結果】病理組織学的解析では、臼歯咬合面を露髄後、根尖周囲歯槽骨には、形態が不明瞭な破骨細胞および、根尖孔周囲には多形核白血球を中心とした細胞の集積が見られ、さらに歯槽骨内の血管と骨小腔が減少し、骨小腔内に存在する骨細胞が萎縮および欠損していた。歯槽骨のマイクロCT解析により、根尖性歯周炎の病巣部位においては、OVX+BPsの群は、OVXの群に比べ、根尖相当部骨吸収面積の拡大が認められた。
【結論】本研究の結果より、骨粗鬆症に対する経口BPs 製剤の投与により根尖性および辺縁性歯周炎を発症した歯槽骨には、骨髄内の血液循環障害による骨細胞機能不全が誘導されている可能性が示唆された。

栗栖 諒子, 日本大学松戸歯学部, 4年生

納豆摂取による歯肉粘膜からの抗菌ペプチドの発現

生体の粘膜上皮や好中球から産生される抗菌ペプチドは自然免疫の一環として生体の免疫機構の重要な役目を果たしている。そうした抗菌ペプチドは口腔内では唾液や歯肉溝滲出液に含まれ、生体における感染防御機構の初期に誘導される自然免疫機構へ関与している。本研究で納豆の胃内投与により代表的な抗菌ペプチドであるα-およびβ-ディフェンシンそしてカテリジシンの発現が口腔粘膜組織にも認められたことから、発酵食品である納豆の摂取は腸管免疫機構を誘導するのみではなく遠隔局所へも効果的に誘導されることが確認できた。α-、β-ディフェンシンは抗菌活性を持つだけではなく血管新生能や樹状細胞、T、B 細胞を炎症巣に遊走させることで自然免疫機構から獲得免疫特機構へ誘導することが知られている。さらにカテリジシンはインフラマゾームを形成阻害することで抗炎症作用をもつことが知られている。腸管免疫機構から口腔免疫機構を誘導・活性化する機序は明らかになっていないが、口腔粘膜組織に抗菌ペプチドが効率的に産生され歯科疾患を予防することができれば重篤化して全身疾患を誘発することもなく、臨床の場における応用が一層期待出来ると考える。

小松 貴紀, 新潟大学歯学部, 4年生

Streptococcus mutansのバイオフィルム形成に対するフッ化物歯面塗布剤の効果

歯面塗布剤に含まれるフッ化物は、形成期におけるエナメル質の耐酸性増強作用やフルオロアパタイトの生成や再石灰化の促進作用などを持つことが知られているが、Streptococcus mutansに対する効果に関しては、未だ不明な点が多く残っている。そこで、フッ化物歯面塗布剤がう蝕病原性細菌S.mutansに及ぼす影響を解析した。ジェル状と液体のフッ化物歯面塗布剤を添加した96ウェルプレート、あるいはガラスボトムディッシュにブレインハートインフュージョン(1.0%スクロース含有)培地とS.mutans MT8148株菌液を加え一晩培養した。クリスタルバイオレッド染色剤や蛍光顕微鏡を用いた解析の結果、フッ化物歯面塗布剤の添加によりバイオフィルムを構成する生きたS.mutans菌の密度を疎にすることが示された。さらに、増殖曲線の結果から、液体のフッ化物歯面塗布剤は、S.mutansの増殖を抑制するが、ジェル状のフッ化物歯面塗布剤はS.mutansの増殖を抑制しないことが示された。本研究により、液体のフッ化物歯面塗布剤は細菌の増殖を静菌的に抑制すること、さらに、ジェル状のフッ化物歯面塗布剤はS.mutansにより形成されたバイオフィルムの固着を抑制することが判明した。

小森園 杏奈, 鹿児島大学歯学部, 4年生

CXCL3は脂肪分化を正に調節する

脂肪細胞はアディポカインと呼ばれる生理活性物質を分泌し、生理的な代謝制御や代謝性疾患の病態形成に関与することが知られている。脂肪細胞の産生するケモカインとしてCCL 2が報告されているが、その他のケモカインの分泌や役割についてはよく分かっていない。そこで脂肪細胞分化に伴う種々のケモカインとケモカイン受容体のmRNA発現量の変化を調べ、その役割を検討した。
マウス脂肪前駆細胞株3T3-L1細胞を分化誘導し、ケモカイン遺伝子群の発現量の変化を解析したところ、CXCL3、CXCL13のmRNA発現が脂肪分化に伴って著明に上昇した。またケモカイン受容体群では、CXCL3受容体であるCXCR2のmRNA発現が高くなった。リコンビナントCXCL3を添加しながら3T3-L1細胞を分化させると、脂肪滴形成や脂肪分化マーカー遺伝子の発現が促進した。
一方、CXCL3と同様にCXCR2のリガンドであるCXCL2、CXCL13を加えた場合、分化への影響はみられなかった。さらにCXCL3およびCXCR2のsiRNAによるノックダウンを行うと、脂肪細胞分化は抑制された。3T3-L1細胞へのCXCL3投与によって活性化されるシグナル分子を検討したところ、ERK、JNKがリン酸化され、ERKの活性化がC/EBPδの発現に影響を与えていることが示唆された。
このように脂肪細胞が産生するCXCL3は、オートクライン/パラクラインの作用によって、脂肪分化を促進する新規アディポカインである可能性が示唆された。

清水 志保, 日本歯科大学新潟生命歯学部, 5年生

ゴーヤによる口臭抑制作用の可能性

【問題点】近年人々の口臭に対する関心が高まっている。普段から私が飲んでいるゴーヤジュースには血糖降下作用や疲労回復効果があると言われている。そこでゴーヤに口腔内環境に与える影響があるか検証した。
【仮説】今回はゴーヤの抗酸化作用に着目し、口臭抑制作用もあるのではないかと考え、以下の実験を行った。
【方法】15%濃度のゴーヤ水を作成し水を比較対象として、一定の条件下で硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイドをガスクロマトグラフィーで測定した。さらに、含嗽前後の口腔内の酸化還元値を測定した。
【結果】ガスクロマトグラフィーにおいて、すべての数値が含嗽直後に減少した。メチルメルカプタンは、含嗽20分後において、含嗽前に比べてゴーヤ水は23%回復したのに対し、水は126%になり、ゴーヤ水で含嗽した方が上昇程度は緩く、含嗽前の値を下回った。硫化水素の数値は、20分後ではどちらも同じように回復し、ほとんど変化がなかった。
【結論】ゴーヤ水を含嗽することにより、メチルメルカプタンを抑制することが示唆された。身近で安全な食物が口臭抑制剤になりうる可能性もある。

髙橋 謙次郎, 明海大学歯学部, 4年生

歯科矯正が及ぼす三叉神経への影響

矯正治療で生じる疼痛には有効な鎮痛手段がなく、歯の移動を制限しない鎮痛薬の開発が望まれている。本研究では、矯正装置装着で誘発される疼痛を定量評価可能な動物モデルを構築し、矯正装置装着が及ぼす三叉神経への影響を観察した。
ラットの上顎門歯と上顎右側第一臼歯を連結し矯正力を負荷した。負荷1(D1)、3(D3)、7(D7)日後に、左右の上顎第一大臼歯に電気刺激を与え、開口反射を誘発する刺激強度( 閾値)を測定した。
実験終了後、三叉神経節のサテライトグリア細胞(SGCs)活性を、glial fibrillary acidic protein(GFAP)免疫染色で観察した。
右側の開口反射閾値は左側に比較してD1で有意に低下し、D3で左右差は消失した。D7では開口反射閾値の左右差は消失、もしくは左側の開口反射閾値が低下した。両側三叉神経節においてGFAP 陽性SGCsに囲まれた神経細胞がD1で認められた。D7では、開口反射閾値の左右差が消失した個体ではGFAP陽性SGCsが観察されなかったが、開口反射閾値が逆転した個体では両側三叉神経節でGFAP陽性SGCsが観察された。
本モデルは矯正装置装着による疼痛感受性亢進を定量的に評価可能であり、疼痛感受性亢進には三叉神経節のS G C 活性が重要な役割を果たしている事が示唆された。

高橋 萌, 東北大学歯学部, 6年生

In vitro, in vivo試験によるセラミック系生体材料の血管形成への影響評価

骨欠損部における新生骨形成過程では、骨形成に先行して血管網の構築、改変が必要である。本研究では骨補填材である焼結ハイドロキシアパタイト(s-HA)とβ-リン酸三カルシウム(β-TCP)顆粒を用い、血管形成の影響、効果を検討した。in vitro試験では、ヒト血管内皮細胞と線維芽細胞の共培養系に、顆粒を同量、浸漬し、血管の長さなどの形態計測を行った。またin vivo試験では、ラット頭蓋骨の骨欠損部に、顆粒を同重量、移植し、パラフィン包埋標本を作製して、血管数、断面積を計測した。in vitro試験では、血管の長さ、血管分岐の数、血管面積は、焼結HAよりβ-TCP顆粒が有意に高かった。一方in vivo試験では、顆粒周囲の肉芽組織の血管は、焼結HAがβ-TCPに比べ、有意に血管数が多く、有意に血管面積が大きかった。以上のことから、焼結HAがβ-TCPに比べ、血管形成に対して抑制的に作用していることが示された。一方で生体内では、焼結HAが異物として認識され肉芽組織形成において血管の成熟を抑制している可能性がある。生体材料は、直接的、間接的な作用によって血管形成に影響を与えると考えられた。

塚崎 敬介, 松本歯科大学, 3年生

骨堂跡より出土した歯に関する調査と研究 - 歯種の鑑別および測定 –

某寺院の参道脇の斜面にあったとされる骨堂の発掘調査が2012年5月に行われ、火葬後と思われる人体の一部、貨幣に加え4000本以上の歯が出土した。
現在の日本では死後において火葬が主流となっており、全国地方自治体(市町村)レベルで斎場を運営し、システマティックに埋葬・納骨まで執り行われている(行政の管理下)。しかし、江戸時代以前では火葬できるのは上位階級の限られた人間のみで多くの人間は土葬であった。火葬後と思われる僅かな人骨の一部と共に出土した歯は火葬されていないものがほとんどであった。
なぜ、山中の寺院の骨堂に大量の歯のみ(大部分が非火葬)が埋葬されたのかは不明である。骨堂跡より発見された歯の年代は副葬品から戦国時代末期から江戸時代を含み明治初頭までと推測されている。私たちは出土した4000本以上の歯などを丁寧に鑑別・観察し、どういった集め方をされたのか、歯の持ち主について歯の種別や咬耗・齲蝕、サイズについての調査を通して考察を行った。
まず出土した歯を注意深く洗浄し、歯に付着していた歯石などは極力回収すべく洗浄後の水はフィルターを通し、歯石など回収した。その後、4208本の歯を解剖学的な特徴により鑑別した。さらに2046本の歯について、全長・歯冠長・近遠心径・頬舌径をデジタルノギスで測定した。

松村 茉由子, 日本大学歯学部, 5年生

矯正力が破骨細胞の分化と機能に及ぼす影響

歯科矯正治療による歯の移動は、主に圧迫力と牽引力のメカニカルストレスが歯根膜を介して歯槽骨に伝達されることによって起こる。しかし、矯正治療を行うときに歯および歯周組織に過度なダメージを与えない矯正力を示唆する臨床的な指標はなく、臨床の場において、”適度な”矯正力を与えることは難しい。そこで、矯正力を想定し、圧迫力(CF)と牽引力(TF)を破骨細胞前駆細胞に負荷したときの影響を検討した。
その結果、破骨細胞前駆細胞にはCF負荷の影響がほとんど認められなかった。一方、TF負荷時においては骨の有機質を分解するプロテアーゼの遺伝子発現が増加することが示唆された。これらのことから、CFおよびTFは、破骨細胞前駆細胞に対して異なる影響を及ぼすことが示唆された。
したがって、歯科矯正治療を行う際には、これらの違いを理解し、歯および歯周組織に過度なダメージを及ぼすことがないよう、注意深く矯正力の選択や治療期間の決定を行うことが大切であると考えられた。さらに、今後はこれらの結果を発展させて適度な矯正力の臨床的指標(数値化など)を見つける研究が必要であるといえる。

三宅 真規子, 大阪歯科大学, 5年生

カタツムリに学ぶあたらしい歯科材料のかたち - バイオミメティクスという考え方 –

カタツムリの殻はミクロンオーダーの微細な表面構造を持っており、その特異な表面構造のために、カタツムリの殻は自浄作用をもつことが知られている。本研究では、清掃が簡便な自浄作用をもつ義歯を開発することを最終目的とし、カタツムリ殻の表面構造を付与したレジンの製作を試みた。その結果、カタツムリ殻から採得した印象を用い、重合条件を最適化することで、カタツムリ殻の表面構造を付与したレジンの製作に成功した。同レジンは、カタツムリ本来がもつ水の濡れやすさと油の濡れにくさを有することが明らかとなった。本研究の遂行によって得られた結果をもとに自浄作用をもつ義歯を製作することで、義歯床管理の容易化および口腔内環境の向上が期待される。本研究ではレジン床の表面への応用を想定して検討を行ったものであるが、本技術はレジン歯やレジン系成形修復材などへの転用も可能であることから、さらなる発展が期待できる。

向井 陽子, 鶴見大学歯学部, 5年生

玉ねぎのケルセチンは歯周病原菌に対する殺菌作用がある

日常生活の中で抗菌薬や消毒薬を使うと、副作用や耐性菌の出現が懸念される。天然由来のポリフェノールの一種であるケルセチンは、数種の細菌に対して抗菌性があることが報告されているので、ケルセチンは口腔病原微生物に対しても殺菌作用があるという仮説を立て、殺菌性を調べた。StreptococcusmutansCandida albicansCandida glabrataPorphyromonas gingivalisPrevotella intermediaFusobacter ium nucleatumの被検液に0 – 0.2mg/ml濃度の各ケルセチン希釈液を添加し、MBC(Minimum Bactericidal Concentration)を測定した。その結果からケルセチンはS.mutansC.albicansC.glabrataに対して殺菌作用がないことが明らかになった。P.gingivalisP.intermediaではMBCが0.5mg/mlで、F.nucleatumでは1.0mg/mlであった。次に0 – 50mg/ml濃度のケルセチン希釈液の経時的な殺菌力を測定した。その結果、P.gingivalisF.nucleatumに対し50mg/mlで30 分後に殺菌効果が現れた。P. intermediaは50mg/mlで1時間後に殺菌効果が現れた。以上より、ケルセチンは歯周病菌に対して、殺菌効果があることが分かった。また、30分~1 時間で十分な殺菌効果を示すので、ガムやトローチを開発することが、歯周疾患の予防に役立つと考えられる。

森谷 康人, 北海道大学歯学部, 6年生

活性酸素種(ROS)が血管内皮細胞に及ぼす影響

血管新生は腫瘍の進展・転移に必要不可欠である。腫瘍血管は正常血管に比べ、走行が無秩
序であること、血管内皮細胞とペリサイトの結合が疎であり血管透過性が亢進していることなどがある。また腫瘍血管内皮細胞 (Tumor endothelial cell : TEC)は正常血管内皮細胞(Normal endothelial cell : NEC)と比較して血管内皮増殖因子VEGFの発現が高く生存能が高いこと、血管新生能が高いことなどが報告されてきたが、TECがこれら特異性を獲得するメカニズムは未だ完全には解明されていない。本研究では腫瘍血管の特異性獲得にROSの蓄積が関わっていると考え、ROSの蓄積が血管内皮細胞に及ぼす影響について解析を行なった。その結果、低栄養状態におかれた血管内皮細胞ではROSが蓄積するとともにVEGFの発現が亢進し、オートクライン機構により自らの生存に利用している可能性が示唆された。このことから低栄養状態に陥っている腫瘍微小環境において血管内皮細胞が示す高い生存能、血管新生能の獲得にはROSの蓄積によるVEGFの発現亢進が関与していることが示唆された。

山本 梨乃, 朝日大学歯学部, 5年生

マウスによるジュースの味質弁別と味覚神経応答

味覚障害を訴える患者には味覚そのものではなく、嗅覚に原因がある場合がある。このことは、我々ヒトの意識する味覚は単純な生理学的味覚とは異なり、フレーバーに依存するようである。本研究では、C57BL/6マウスが各種ジュース類を弁別する際の生理学的な味覚への依存度を、味覚嫌悪条件づけを用いて検討した。さらに、各種ジュースには甘味受容器刺激成分がどの程度含まれているのかを、甘味抑制剤を用いて電気生理学的に検討した。その結果、100%オレンジジュースに味覚嫌悪を条件づけられたマウスは、5基本味のうちショ糖のみを忌避し、50%、10%あるいは無果汁のオレンジジュースのみならず、100%グレープジュースや野菜ジュースも忌避した。甘味抑制剤であるプロナーゼE 舌処理前後のマウス鼓索神経応答を比較したところ、0.3Mショ糖応答は81.1%抑制したが、各種ジュース類に対する抑制率は、ショ糖の1/2以下であった。以上の結果から、マウスの飲料水弁別は、ヒトとは異なり、フレーバーよりも生理学的な味質が優先されること、また、飲料水に含まれるそのコンポーネントがさほど大きくなくても十分に弁別できることを明らかにした。

 

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