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2011 年 10 月 のアーカイブ

第17回大会

2011 年 10 月 30 日 コメントはありません

第17回大会 2011年(平成23年)8月19日 参加校21校
タイトルおよび発表内容要旨 (上位入賞者を除き発表者氏名50音順)
※氏名・所属・学年は発表当時

優勝/日本代表 – 基礎部門 第1位:髙才 東,広島大学歯学部,5年生

歯周病予防と治療を目的としたラクトフェリンの応用

歯周病は歯周組織における慢性炎症性疾患で、進行性の歯槽骨破壊の制御が最大の課題である。本研究で着目したウシラクトフェリン(bLF)は様々な食品に添加され、安全性の高い食品由来物質であり、数多くの生物活性を有する。近年bLFはTNF-αやIL-1β発現抑制を介して抗炎症効果を発揮することが報告されており、本実験では歯周病における歯槽骨破壊に対する効果について検討した。bLFはラットLPS歯周組織破壊モデルにおいてLPSの誘導するTNF-αの発現を減じ、破骨細胞性骨吸収を抑制した。そのメカニズムを明らかにするため、in vitroで検討したところ、bLFは骨芽細胞においてLPS刺激によるTNF-α、RANKLの発現上昇を抑える事で破骨細胞の分化・誘導を抑制した。さらに、bLFは前破骨細胞に直接作用し、RANKLの誘導する破骨細胞分化マーカーの誘導を著しく抑制した。また、bLFは骨芽細胞のBSP発現を高めることによって石灰化物形成能を促進した。bLFは骨芽細胞を介した破骨細胞分化を抑制するとともに、破骨細胞にも直接作用し、破骨細胞の分化・誘導を抑制する事で骨破壊を防ぐ一方、骨芽細胞の骨形成能を高める可能性が示唆された。よって、bLFは歯周病における歯槽骨吸収の予防薬、治療薬として有用であると考える。

準優勝 – 臨床部門 第1位:新木 志門,日本歯科大学生命歯学部,4年生

LED照射がヒト口腔内細菌に与える影響 ~LED照射による歯周疾患の新規予防法の開発をふまえて~

LED照射は歯周病原菌の増殖を抑制し、歯周治療や予防への応用が期待されている。しかし、プラーク中の歯周病原菌に対するLED照射の影響は不明である。我々はLEDを利用した歯周疾患の新規予防法の開発をふまえ、口腔内の細菌に対するLED照射の効果を検討した。まず、10分間のLED(波長460nm)照射がP. gingivalisの標準菌株:ATCC33277増殖を抑制した。そのため、歯肉縁下プラークから分離培養した黒色色素産生菌にLEDを照射すると5分間で増殖が抑制され、さらに10分間の照射で高い抑制が見られた。最後に、健常な歯周組織を有する被験者10名の左右側犬歯遠心面のどちらかに4日間、1日2回、1回10分間、LEDを照射するよう指示したところ、LEDを照射した部位の方が照射しなかった部位よりも増殖抑制部位数が多く、増殖抑制率も高い傾向にあった。以上のことから、LED照射にはプラーク中の歯周病原菌の増殖抑制効果があり、歯周疾患の予防に利用できると考えられた。そこで、同部位に10分間 LEDを照射するため、LED内蔵のマウスピース使用する新たな歯周疾患の予防法を提案する。

基礎部門 第2位:本間 由佳子,鶴見大学歯学部,5年生

口腔病原微生物を抑制する新奇シンバイオティクス(プレバイオティクスおよびプロバイオティクスの融合)の開発

口腔疾患の多くは口腔細菌叢に存在する病原微生物に起因するが、化学物質からなる口腔ケア剤は宿主組織を傷害する可能性がある。プロバイオティクスとプレバイオティクスは化学物質を用いずに腸内の健康を維持/促進するために用いられているが、口腔への効果は未だに不明である。
そこで、糖と乳酸菌の組合せが口腔の健康に有効な新しいシンバイオティクスに成りうる、という仮説を立てた。
プロバイオティクス候補探索の対象として乳酸菌の標準菌株、ヒト口腔由来、市販食品由来、計40菌株を使用した。乳酸菌培養上清によるCandida albicansとPorphyromonas gingivalis生育阻害試験(CFU法/ディスク法)、 およびStreptococcus mutans多糖体産生阻害試験(フェノール硫酸法)を行った。その結果口腔由来の乳酸菌5株が有力候補となった。
プレバイオティクス候補糖探索のために12種類の糖の資化性試験を行いxylitolとarabinoseが選ばれた。
これら2糖と乳酸菌5株の組合せが口腔の健康に寄与する新奇なシンバイオティクスとなることが期待された。

臨床部門 第2位:竹内 大智,大阪歯科大学,5年生

香り成分による口腔ケアを指向した携帯加湿器の試作と研究

手軽に使える口腔ケア商品には、ガムや飴などの食品を使ったものが多く、う蝕や余分なカロリー摂取などのリスクを含んでいる。本研究では、香り成分を含む蒸気で嗅覚を刺激し唾液分泌を促すことによって、口臭予防が可能であると考えた。ショウズク、クロコショウ、ウメ、ワサビ、シソ、ネギ、ミョウガ、スダチ、ヨモギを作用成分候補として蒸留装置を使って香料成分を取り出した。これらの成分を注入した携帯加湿器を使用し、蒸気の吸入による唾液分泌量の増減を評価した。その結果、携帯加湿器による吸入によって唾液の分泌が起こったのはショウズクとクロコショウのみであった。特にショウズクの香り成分の吸入による唾液の分泌は、安静時のおよそ1.5倍になることが明らかとなった。携帯加湿器はその取り扱いの簡便さから比較的容易に日常的に使用することが可能である。今後、携帯加湿器の長期使用による唾液分泌量の改善、口腔細菌増殖の抑制、細菌代謝物の減少による口臭の減少および免疫力の向上を明らかにし、携帯加湿器によって口腔ケアから体全体の健康増進ができることを示したい。

市川 一國, 日本大学松戸歯学部, 3年生

発酵食品による免疫増強効果

発酵食品は日々の食生活において重要な健康食としてみとめられている。発酵食品がもたらす健康増進効果はプロバイオティクスによる有益性のみならず食品成分が有する免疫増強効果にも起因すると考えられる。そこで、本研究では発酵食品のもつ免疫増強効果について検討した。発酵食品(納豆・ヨーグルト・米酢)をそれぞれ1日2回、7日間連続してマウスに経口投与した。最終投与の1日後に脾臓およびパイエル板から単核細胞を分離し、樹状細胞とナチュナルキラー細胞の発現頻度についてフローサイトメ―ターを用いて解析した。その結果、納豆あるいはヨーグルトを投与したマウスのパイエル板における樹状細胞とナチュラルキラー細胞の発現頻度がリン酸緩衝液投与マウスに比べて有意に上昇した。一方、米酢を投与したマウスのパイエル板ではどちらの細胞も発現頻度の上昇はみられなかった。以上の結果から、発酵食品(納豆やヨーグルト)を経口摂取することにより、腸管における自然免疫を活性化する可能性が示唆された。現在、我々は発酵食品によるナチュラルキラー活性やT細胞、B細胞応答の効果を検討している。

井上 拓哉, 新潟大学歯学部, 4年生

ヒト嚥下誘発とその個人差に関する生理学的探究

嚥下は末梢や上位中枢からの入力により随意性にも反射性にも誘発可能な複雑な運動である。随意性嚥下の実行能力の個人差は健常者間でも大きなことは知られているが、この個人差が何に依存するのかは未知である。そこで次の仮説を立て検証することとした。随意性嚥下の実行能力が低い人ほど反射性嚥下の末梢刺激の効果が高ければ、嚥下能力の差は中枢性入力の差である可能性が示唆され、反対であれば、嚥下能力の差は末梢性入力もしくは嚥下中枢そのものの差である可能性が示唆される。方法は、健常被験者12名を対象に咽頭への微量液体刺激(①蒸留水(DW)、②0.3 M NaCl溶液)時の随意性嚥下と反射性嚥下を記録し、各嚥下間隔時間(swallowing interval:SI)を求めた。その結果、NaCl溶液刺激における随意性嚥下と反射性嚥下を比較すると、両者のSIの間に有意な正の相関を認めた。また、NaCl溶液刺激時とDW刺激時のSIの差は水刺激による促進効果と考えられるが、この水刺激の促進とNaCl溶液刺激時の随意性嚥下のSIとの間には有意な正の相関を認めた。
以上より、嚥下実行能力の個人差は嚥下中枢の能力の差に依存し、末梢性の刺激入力は中枢性の嚥下実行能力の個人差を代償する可能性が示唆された。

太田 琴美, 日本歯科大学新潟生命歯学部, 4年生

フラクトオリゴ糖の口腔内病原性細菌増殖抑制作用と歯磨剤への応用

フラクトオリゴ糖(FOS)は、整腸作用を持つことで特定保健用食品として認可されている。そこで私達は、FOSが口腔内病原性細菌に対して増殖抑制作用を持つのではないかと考え、さらにFOSを歯磨剤に配合することによるキシリトールとの相乗効果を期待することを目的として以下の実験を行った。
1)FOS(顆粒) 0, 1, 5, 10, 20%のBHI液体培地をStreptococcus mutans(OMZ175)、Aggregatibacter actinomycetemcomitans(Y4)、Porphyromonas gingivalisについて作製し37℃で培養を行い、それらの細菌の増殖を分光光度計(波長660nm)で経時的に測定した。2)スクロース含有BHI液体培地でも同様にS.mutansの培養を行い、バイオフィルム形成への影響も観察した。3)ヒト上皮細胞(KB細胞)、マウスの線維芽細胞(L929)、ヒト線維芽細胞(3T3細胞)を用いて、FOSの細胞毒性試験を行った。
その結果、S.mutansの増殖はFOS20%にて強く抑制され、P.gingivalisの増殖は、FOS 20%で完全に抑制された。さらにFOS 20%にてS.mutansによるバイオフィルムの形成は抑制された。細胞毒性試験ではKB細胞、L929細胞、3T3細胞について、FOSの細胞毒性は認められなかった。
以上の結果より、FOSはS.mutans、 P.gingivalisの増殖を抑制し、全身の健康に寄与するので、歯磨剤に甘味剤や湿潤剤として配合するのに十分に有用であり、積極的に応用すべきであることが示唆された。

川原 侑子, 北海道大学歯学部, 6年生

“腫瘍環境因子”が血管内皮細胞に及ぼす影響

腫瘍組織において、血管は栄養や酸素の供給、老廃物や代謝物の排出などの役割を担っており、血管新生は腫瘍の進展・転移に重要である。腫瘍微小環境では、腫瘍細胞から様々なサイトカインや増殖因子が分泌され、また、血管の蛇行や血流のよどみにより低酸素状態に陥っている。近年、腫瘍組織における血管内皮 (TEC) が正常組織の血管内皮 (NEC) と比較して遺伝学的に異常であることが報告されてきた。しかし、TECの異常性獲得のメカニズムについて多くの点が不明である。本研究ではその一因に腫瘍内の環境因子が関わると仮説を立て、”腫瘍環境因子 (腫瘍細胞由来液性因子、低酸素)” がNECに及ぼす影響について検討した。NECを腫瘍細胞培養上清処理下および擬似的低酸素 (CoCl2処理) 下で24時間培養し、通常培養のNEC (コントロール) と遺伝子発現を比較検討した。その結果、コントロールに比べて腫瘍環境因子存在下では、VEGF-A  (血管内皮増殖因子)  をはじめとする血管新生関連遺伝子の発現が亢進していた。このことから、腫瘍血管内皮細胞の異常性獲得に腫瘍環境因子が関わる可能性が示唆された。

高橋 那緒, 昭和大学歯学部, 4年生

Streptococcus mutansの齲蝕原性に関わる菌体表層蛋白質の解明

細菌固有の表層蛋白質やリポタイコ酸は、外部環境との相互作用の観点から細菌感染において重要な役割を果たすとされているが、詳細は未だ不明である。現在、菌体表層蛋白質は細胞壁に共有結合して存在するLPXTG蛋白質、細胞膜の脂質と結合しているリポ蛋白質など結合様式の違いにより7種類に分類されている。S.mutansゲノムデータベース検索の結果、7種類のLPXTG蛋白質、27-35種類の推定リポ蛋白質の存在が示唆され、そしてこれらLPXTG蛋白質やリポ蛋白質の機能及び局在性が1つの酵素作用によって触媒されるという極めて興味深い知見が明らかにされた。そこで今回我々は、LPXTG蛋白質の細胞壁結合を触媒する酵素ソーターゼ(SrtA)、リポタンパク質修飾酵素Lgt、そしてリポタイコ酸合成酵素DltAに着目し、それらを喪失したS.mutansの欠損株を作製し、齲蝕原性能(グルカン依存性凝集能、糖依存性壁付着能、糖代謝能(キシリトール混在下))を調べ、野生株の表現型と比較することでそれら酵素の重要性を明らかにしようと試みた。その結果、グルカン依存性凝集にはSrtAが、糖依存性付着にはマルトース、スクロース存在下でSrtAとDltAが、キシリトール混在下での増殖能にはLgtがそれぞれ重要な役割を果たしている可能性が示唆された。

田川 晴菜, 九州大学歯学部, 4年生

寒天印象材と超硬質石膏で作製した模型の表面は本当に荒れるのか

一般に、ハイドロコロイド印象材からの離水による模型の表面荒れを回避する目的で、寒天印象材には超硬質石膏ではなく硬質石膏が組み合わせて用いられる。しかし、果たして硬質石膏から得られた作業模型は表面再現性における臨床的精度を保証できるのだろうか。また、寒天印象材と超硬質石膏の組み合わせで得られた模型の表面荒れは本当に生じるのだろうか。これらを明らかにするために、寒天もしくはシリコーン印象材と硬質石膏もしくは超硬質石膏を組み合わせて4種類の石膏模型を作製し、表面および割面を観察するとともに表面粗さ(Ra)を測定した。寒天印象材と硬質石膏の組み合わせで作製した模型はRa値が最も小さく滑沢な表面を持つため、高い表面再現性が期待されることが分かった。また、寒天印象材と超硬質石膏の組み合わせで作製した模型の表面荒れは生じておらず、シリコーン印象材と超硬質石膏を用いて作製した模型のRa値より小さかった。以上のことから,寒天印象材からの離水の影響で石膏表面に荒れが生じることはなく、機械的強度が要求される模型が必要な際には寒天に超硬質石膏を組み合わせて模型を作製することは問題ないと結論した。

露﨑 亜美, 日本大学歯学部, 5年生

印象材の風味が印象採得に及ぼす影響

印象採得は、補綴歯科診療において必要不可欠なものであるが、患者にとってこの行為は快適とは言えない。本研究は、快適な印象採得法の開発を目的として、無風味の印象材(Control)と好みの風味を添加した印象材(Flavor)で患者の感覚に違いが認められるか比較検討した。風味は、6種類の風味の中から被験者自身に選択してもらった。
被験者72名を対象に、ControlとFlavorの両方で上顎の印象採得を行い、それぞれの印象採得前、印象採得後の不快感、緊張感、吐き気、痛み、爽快感、楽しさおよびリラックスの7項目についてVAS(Visual Analogue Scale)を用いて評価した。
VAS値において、Controlに比べてFlavorを用いた場合、印象採得前での楽しさが有意に増加し、印象採得後では、不快感、吐き気、緊張感および痛みが有意に減少し、爽快感、楽しさおよびリラックスは有意に増加した。
本研究により、自分で選んだ好みの風味を印象材に添加することは、印象採得時の不快感や緊張感の低減につながり、楽しく快適な印象採得法としての有用性が示唆された。

中平 賢吾, 神奈川歯科大学, 4年生

マイクロスコープによる歯科診療の視覚機能に及ぼす影響

歯科用マイクロスコープの普及に伴い、精度と予知性の高い歯科診療が可能になった。その光源にはハロゲン、キセノンそしてLED等があり、特にキセノン光源による明視野は、非常に有用である。しかし強烈なキセノン光源が術者の視覚機能に影響があるかを示した研究はない。
今回我々は、視覚機能に対するマイクロスコープ光源の影響について解析した。 被験者6名(年齢21~44歳)は事前に眼科にて、焦点調節を検討する「調節機能検査」、明度を同時に評価する「コントラスト視力検査」を測定した。被験者は30分間のマイクロスコープ下での歯内療法を行い、術直後、30分後、1時間後に同視力検査を行った。1週後にマイクロスコープ光源をキセノンからハロゲンに交換し、光源の視覚機能への影響を比較した。また各光源の射出光からの照度測定も行った。「調節機能検査」では焦点調節の反応時間を示す潜時で光源による差違はなく、焦点調節の反応量を示す利得でも、光源による差違はなかった。 「コントラスト視力検査」においても光源間での差違は認められなかった。 光源の種類がマイクロスコープ顕微鏡下での作業後の視覚機能に影響を与えないことが示唆された。

橋本 栄, 大阪大学歯学部, 4年生

キメラタンパクによる免疫系の活性化

近年、世界中で多剤耐性菌が報告されている。これらの菌はあらゆる抗生物質に対して抵抗性を示すため、従来の抗生物質を用いる治療が困難である。そこで、抗生物質に代わる治療として感染した細菌を排除するために免疫グロブリンの応用を考えた。免疫グロブリンの抗原決定部位をTLRの抗原認識領域に組換えることで、初めて感染した細菌に対しても幅広く認識することができ、さらにオプソニン化を誘導することで免疫力を亢進することが期待できる。また、それぞれの領域にヒト由来の分子を用いているので、生体に対する副作用がきわめて少ないとも考えられる。キメラタンパクをパーソナルコンピュータ上で設計し、作製したプラスミドベクターを用いてタンパク発現用動物細胞に組み込んだ。発現させたキメラタンパクを回収後、ウェスタンブロット法を用いて抗TLR抗体と抗IgG抗体で検出したところ設計分子量辺りにどちらの抗体でも検出された。さらに非還元状態では二量体の状態で検出された。またフローサイトメーターで種々の細菌と合成したキメラタンパクが結合することも確認できた。今後、このキメラタンパクが好中球の貪食にどのように関与するかを検討する計画である。

原田 文也, 北海道医療大学歯学部, 5年生

Rho キナーゼ阻害剤によるマラッセ上皮細胞の培養寿命の延長

近年、ヒトの歯根膜から単離されたマラッセ上皮細胞 (ERM) がエナメルタンパクを分泌するエナメル芽細胞へ分化することが報告され、歯の再生医療におけるERMの応用が期待されている。しかし,ERMを単離し、充分な量を得るまで長期培養をすることは困難であり、臨床応用を難しくしている。最近になり、Rhoキナーゼ阻害剤(ROCK阻害剤) がヒト胚性幹細胞のクローニング効率を著明に増加させることが明らかになり、初代培養細胞の長期培養への有用性が期待されている。今回、我々はROCK阻害剤によるERMの培養寿命の延長を試みた。
様々な濃度のROCK阻害剤をERMに添加し培養を行った。寿命延長のマーカーとしてテロメア逆転写酵素(TERT)、老化のマーカーにp16を用い、その発現レベルをRT-PCR法により観察した。
その結果、ERMは10 ?M のROCK阻害剤を添加することで有意なTERTの発現レベルの上昇がみられた。 p16の発現レベルに変化はみられなかった。
以上の結果から、ROCK阻害剤によって簡便にERMの延命培養が可能であり、本方法によりERMの歯の再生医療への応用が可能であることが示唆された。

藤居 泰行, 鹿児島大学歯学部, 6年生

メカニカルストレスによる炎症反応の制御機構

口腔内は咬合による機械的因子と、常在菌や外来菌感染による細菌学的因子が組み合わさる特徴的な場である。メカニカルストレスと細菌性因子は、共に骨代謝に影響する重要なファクターであることが知られている。歯科臨床的にも両者の相互作用が重要であり、歯周炎の存在下での咬合性外傷や矯正治療は、歯槽骨の吸収をさらに進行させるという報告がある。しかし、骨代謝におけるメカニカルストレスと細菌性因子の相互作用の分子機構はまだよく分かっていない。そこでこの分子機構を明らかにするため、グラム陰性菌の細胞壁成分であるLPSによる刺激を受けた骨芽細胞における炎症性液性因子の発現レベルの変化に、伸展刺激によるメカニカルストレスはどのように影響を与えるのか検討した。LPSによる刺激は炎症性細胞の走化因子であるケモカイン(GRO-alpha、IP-10、MCP-1、MCP-3)の著しい発現レベルの上昇を引き起こした。さらにLPS刺激と同時に伸展刺激を加えたところ、LPSのみの刺激で誘導されたGRO-alphaとIP-10の発現レベルの上昇は有意に減弱した。この結果は、骨芽細胞に対しての伸展刺激によるメカニカルストレスが、細菌性因子によって誘導される炎症反応を抑制する可能性があるということを示唆する。

別所 佑衣, 徳島大学歯学部, 4年生

走査型電子顕微鏡を通してみた歯科診療環境と感染予防対策

歯科診療直後の器具や診療設備における微生物汚染の度合いを、電子顕微鏡観察により示すことができれば、感染予防対策に貢献できると考えた。しかも偶然にも3年生の研究室配属中に手伝った実験中に、微生物がありのままに付着した状態で観察できる安価な耐酸性・耐アルカリ性紙を見つけた。そこで、タービンヘッド、スケーラーなどの診療器具や、ゴーグル、マスクなどの様々な部位に5 mm×5 mmの特殊紙を張り付け、一定時間診療後、特殊紙を回収し、通法に従い固定、脱水、コーティング処理後、走査型電子顕微鏡にて観察した。特記すべき点として、タービンヘッドにはバイオフィルムの状態で菌が付着することが示されたことである。ゴーグルには飛沫により粉塵が多量に付着していた。しかし予想していたよりもワークテーブルやユニットの周辺にはほとんど菌は付着していなかった。今回の観察から特にタービンヘッドの滅菌やゴーグルを使用する感染予防対策の必要性を知った。走査型電子顕微鏡を用いて、診療室中の様々な箇所で採取したサンプルを直接観察したことで、感染予防にあたって、特に注意すべきキーポイントの確立に貢献できたと考えられる。

桝井 さゆり, 九州歯科大学, 6年生

Mash1が味蕾細胞の分化に及ぼす影響

Mash1は発生期に神経幹細胞に発現し、幹細胞から神経細胞への分化決定に働く転写制御因子である。Mash1は味蕾にも発現しており、味蕾細胞の分化にも関与している事が推測されている。本研究では味蕾細胞に分化におけるMash1を初めとした転写制御因子の機能を検索することを目的とした。
胎生期の有郭乳頭・軟口蓋味蕾における味蕾細胞のマーカーの発現を検索すると、胎生18日に野生型の有郭乳頭上皮や軟口蓋味蕾において認められた3型細胞のマーカーであるAADCの発現が、Mash1ノックアウトマウスにおいては観察されなかった。また、軟口蓋味蕾において2型細胞のマーカーであるgustducinの発現を検索すると、Mash1KOと野生型マウスの軟口蓋味蕾でgustducin陽性細胞が認められた。これらの結果から、味蕾細胞の各細胞型は独立した細胞系譜の細胞であることが示唆され、Mash1は3型細胞の分化に重要な役割を演じていることが示された。また、培養舌上皮細胞に味蕾の分化に発現する転写制御因子を強制発現させると、培養舌上皮細胞の中には神経細胞様の形態を示す細胞が観察され、神経細胞のマーカーの発現が認められた。

松山 祐輔, 東北大学歯学部, 6年生

日本における多数歯欠損高齢者の欠損補綴の所得格差

歯科疾患の健康格差の存在が指摘されているがこれまで国民皆保険の存在する日本での歯科受診状況の経済格差が検討されたことは無かった。本研究では歯科受診状況を反映すると考えられる、多数歯欠損高齢者の補綴治療の有無に所得による違いがあるかを検討した。
○市の65歳以上の全住民を対象に調査票を郵送し5,508名からデータを得た。回収率は59.0%であった。残存歯数が9本以下で回答に欠損値を持たない1404名について、補綴治療の有無と世帯収入の関係をロジスティック回帰分析で検討した。
補綴治療受診者は全体の73.8%で、所得が多いほど受診者が多い傾向にあった。年齢、世帯人数、教育歴を調整した上でも、世帯年収が50-100万円の者に比べて高所得者で有意に治療受診者が多かった(オッズ比:200-300万円;2.24、300-400万円;2.22、400万円以上;2.50)。しかし、所得が50万円未満の者においても治療受診者が有意に多かった(OR=2.97)。
本研究により、日本の社会保障制度下においても多数歯欠損高齢者において、低所得者で歯科受診が抑制されている可能性が示唆された。また、最低所得層では治療受診者が多かったが、これは生活保護の医療扶助により自己負担がなくなったことによるものだと考えられる。

峯田 武典, 岩手医科大学歯学部, 5年生

患者がわかる歯科用語についての調査

近年の国民の口腔保健意識の向上に伴い、一般の人々に広く普及した歯科専門用語があると考えられる。本研究は、一般の人が実際に理解困難な用語と、専門家が一般の人には理解できないと想定している用語は違うのではないかという仮説を検討することを目的とした。
某歯科病院において、216名の患者と117名の歯科医師、歯科学生61名を対象にアンケート調査を行った。40項目の歯科用語に対し、患者には知っているかを、歯科医師と歯科学生については一般の人が知っていると思うかどうかを質問した。その結果、口腔保健用語は補綴や歯科材料に関する単語に比べ多くの患者に知られていた。また専門用語と考えられている「犬歯」と一般用語と考えられている「糸切り歯」の認知程度は同等であった。グループ間の回答分布の差違は多くの用語に認められた。例えば、「齲蝕」と「スケーリング」は歯科医師や歯科学生は認知度が高いと考えていたのに対し、患者はほとんど知らなかった。反対に、「口腔」は歯科医師や歯科学生の想像以上によく知られていた。
結論として、歯科医師が専門的であると思っている歯科用語の中には、多くの患者が理解できるものもあることが示された。

宮木 宏典, 朝日大学歯学部, 3年生

口腔レンサ球菌に緑色蛍光を付与するプラスミドベクター作出の試み

口腔細菌叢における口腔レンサ球菌の存在は、う蝕のみならず、細菌性心内膜炎や誤嚥性肺炎などの発症の原因となる。従って、生体内における口腔レンサ球菌の正確な棲息部位や挙動について理解を深めることはこれらの疾患を克服する上で重要な課題であると考えられているが、その詳細は明らかにされていない。
一方腸内細菌では、緑色蛍光タンパク質Green Fluorescent Protein (GFP) の蛍光励起を利用して、生体内での局在や挙動が非侵襲的に詳細に調べられている。現在までに、腸内細菌ではGFPの発現を誘導するプラスミドベクターが多数開発されている。中でも大腸菌由来のLacZプロモーター下流にGFP遺伝子 (gfp) を組み込んだpAcGFPは、大腸菌の局在や挙動を調べるのに広く使用されている。
口腔レンサ球菌ではgfpの発現を誘導可能なプロモーターを持つ優れたプラスミドベクターは、未だ開発されていない。そこで、pAcGFP中のLacZプロモーターを口腔レンサ球菌で機能するプロモーターに改変することにより、口腔レンサ球菌においてgfpの発現を誘導するプラスミドベクターが開発できると推測し、その作出を試みた。

吉田 沙織, 岡山大学歯学部, 4年生

ラット歯髄から樹立した細胞の生物学的解析 ~細胞シートを用いた歯の再生への挑戦~

近年、幹細胞を用いた再生医療研究は様々な分野で進められており、歯髄組織中にも象牙芽幹細胞が存在すると考えられている。本研究では歯髄組織から細胞を樹立しその性格について細胞生物学的に解析を行った。
歯髄から得られた細胞を石灰化誘導培地で培養すると線維状の細胞外基質産生が認められ細胞はシート状に変化した。アリザリンレッドによる染色では線維状物質は陽性を示し石灰化が経時的に進む様子が観察できた。また電子顕微鏡による観察ではコラーゲンの産生、基質小胞やカルシウム小結晶塊が観察され、生体内の硬組織形成過程と類似した現象が観察された。またRT-PCRにおいて象牙質基質に関連した遺伝子の発現が認められた。以上のことから歯髄から採取した細胞は象牙芽細胞の性格を有していると考えられた。
歯の再生は歯科医師だけでなく、いつまでも健康な歯を持ち続けたい一般の人々にとっても関心の高いテーマである。このような細胞シートの研究が進めば、将来はう蝕で露髄した歯に象牙質シートを被せる治療法、チタンに象牙質シートを被せて歯根膜の再生を期待する新しいインプラント技術の開発も可能になるのかもしれない。

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